Untitled. / mini

prof bkm

【SS】The moon of the demon city.

「どうしますか」
 暗い色の長袍を纏った男の問いかけに、彼の後ろに立つスーツ姿の人物は「やれ」と一言だけ告げる。その言葉に彼は頷き、その指に掛けていた引鉄を引いた。
 
「雉も鳴かずば撃たれまいものを」
 男の後ろでボソリと呟かれたその言葉に彼が振り返れば、彼に指示を与えた人物が感情を抑え込むような無表情で彼が殺した男の亡骸をぼんやりと見つめていた。
「行きましょう」
 男の言葉に、その人物は小さく頷いた。
 
「ボス、お戻りかい?」
 開店前のクラブ“Fly me to the...”のバーカウンターには細身のスーツを纏った小柄な人影が彼らを出迎える。低い位置で一括りにした長い銀髪を揺らし、メガネのガラス越しに赤い瞳を細めながら長い前髪で左半分が隠されていても判る目鼻立ちの整った顔を笑みの形に歪める。
「ジウか」
「アルコールが欲しくなってね。勝手に頂いてるよ」
 ジウからボスと呼ばれた人物は、ジウの言葉に「好きなだけ飲んでいけ、後で報酬を渡す。部屋に寄ってくれ」と言葉を投げかけそのまま奥へと消えていった。ジウはそんな姿を見送り、「リャン、いつまでやらせておくつもりなんだい?」と残された男――リャンへ告げる。
「何の事だ」
 リャンの言葉にジウはワザとらしい溜息を吐き「お嬢だよ、いつまでボスの真似事をさせておくんだ」と言葉を重ねる。
「真似事などでは――」
「そう言い切れるのか?」
 リャンの否定に被せるように嘲るような声色でジウは何も言わないリャンに対し、言葉を続ける。
「元々お嬢は虫も殺せないような子だろう。あんな事がなけりゃ、こうはなっていなかった。そろそろ限界だろう」
「ボスを見くびるな」
「見くびっちゃぁいないよ、ただ、見てられないだけさ」
 そう告げたジウはグラスに満たされたウイスキーを呷り、笑う。
「先代はお前に継がせたいと思っていたんだろう? お前を推す声は今でもあると言うし、お嬢にはオーナーだけをさせればいいじゃないか」
 そう言ってグラスを空にしたジウは席を立ち、店の奥へと足を向ける。そんなジウの後ろ姿に、リャンは吐き出すように「あの子の意思だ」と呟くのだ。
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17.10.22 21:10 Sun / comment 0


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