話題:妄想を語ろう
早朝の雨は
小雨になり太陽の光が疎らに現れる
「風が強い‥また向こうの 雨雲が来ますね」
僅かな間 細かな雨粒を浴びる2人
「ボルツ、黙っていないで何か言って下さい」
ボルツの唇は拒否する様に、真一文字に閉じている。
「何故、私に断りもなく勝手に入ったのですか?」
「それは悪かった」
「どうして突然‥1度貴方は斬り捨てたんですよ」
脆い宝石を纏った
〈にんげん〉
「確かに斬った瞬間見た事が無い気味の悪さもあった‥。だが、斬った事を凄く後悔した」
ひとつひとつ思い出しながら語るボルツの瞳には
困惑と動揺
憧憬に似た感情と、それが何に対してなのか‥確信の持てない怒りが滲んでいた
「ボルツ‥貴方」
「ダイヤに聞いた、金剛先生とルチルだけが知っていたんだな」
太陽の光は
勢いを失い
今また雨粒が
パラパラ落ちてくる
「ええ‥私が見付けて金剛先生に報告を。そこで皆には知らせない決定を下したのです‥あ、ダイヤには偶然見付かってしまっただけです」
「あぁ‥大分ダイヤが懐いていたらしいな。何でだ?」
ボルツの髪が
嵐の気配を孕む風に舞い‥
まるで彼の心情を
表現している様だった。
「にんげんの世界での付き合いの深さ‥でしょうね」
「ダイヤと?」
「ダイヤモンドは、婚姻の印だそうですよ。我々とにんげんの脈々と受け継がれた意識の共有みたいなモノですかね」
「では、僕の‥この気持ちは何だ!?」
「ボルツダイヤモンドと言われていて‥より身近な存在なんですよ。にんげんにとって‥貴方は」
遠くで雷鳴
黒い雨雲が迫る
「‥じゃあ、この」
ボルツが自身の胸元を苦しげに掴む
「刻まれた記憶‥だと思いますよ」
単なる憧憬
好意とは違う感覚
「‥そうか」
初めて感じた想いの
正体が分かり
みるみる気が抜ける
ボルツの姿
「それは、真の愛だとでも言った方が良かったですか」
「いや‥。もう1度頭を整理する」
今度会う時は、必ずルチルに伝える
それだけ言うと
フラリと立ち去る
「あぁ‥言い過ぎましたかね」
まるで恋のライバルを
蹴落とす様に
「適当な事を言って戦意喪失させて」
そんな事言って。
私こそ
彼女の何なの
「別に、ただ一方的に想うだけの‥」
我慢していた
大粒の雨が
ルチルを覆う様に降り注ぎ
言葉さえも
雨が飲み込む