(見なければ救われた、のに)


もしももう一度大学に入るとしたら迷わずに哲学科に入りたい。昔から変なところで深く考えてしまう性分だった。ニーチェやデカルトも読んだけど、深入りすることなく辞めた。


「貴方は間違いなく哲学なんて学んだら死んでしまうから」と私に強く言ったのは母だった。誰よりも普通でありたい癖に誰よりも一番になりたい私を見抜いていたのだろう。今でも思う。哲学なんて一つの知識だ。それらを全て理解することはできなくても断片的には理解できる。それに殺される自己はどこで救済を願えばいいのだろうかと。

生産性なんて一切ない。今専攻している文学だって同じだ。子供が生まれるわけでもないし、そもそも存在すらせずともどうにかなるのだから。孕んだのは悲しみだ。恋だ。夢だ。死臭だ。あの世のために献杯しよう。あの一等星の上から私は飛び降りる。

「哲学を学べ」と師が教えを説くなら黙って屋上で本を読もうではないか。