when our story began
話題:なれそめ
------出会い
私が大学4年ではじめたスポーツのコーチが、ユキさんだった。
指導者に恋するってどうなのって言われてしまえばそれまでだけど、練習中はお互い完全に切り替えるし、今も周りは私たちの関係を、ほとんど誰も知らない。
ユキさんは、私の通っているところでは一番厳しいコーチとして有名で。
だからこそ最初は怖かったなあ。今もクラス中は怖い。笑
でも実力も指導力もピカイチだった。
------優しい人だと知った日
夜遅くまで練習している、本気でやっている女子なんて私だけで、だからこそユキさんは気にかけてくれて、自主練にたくさん付き合ってくれた。
その流れで、練習後の片づけを手伝うようになって、少しずつ雑談も増えた。
基本命令口調で言葉が強いし、俺様なユキさんだけれど、本当は周りに気をすごく使う人で、本当はとても優しくて、まっすぐな人だと、気づいた。
私が風邪を引いているのにすぐ気が付いて、帰り際にホットレモンを投げつけてきて。
ぶっきらぼうに「それ飲んで温まってから帰れ。」「風邪ん時に無理して来るんじゃねえ。・・・俺にうつったらどーしてくれんだ!」
下心も打算も一切ない、まっすぐな優しさがすごく嬉しかったの覚えてる。
------お互い人間不信の臆病者と知った日
片付けのあと、ユキさんがカフェオレを私に淹れてくれて、彼の事務作業が終わるまでぐだぐだ話すのが日課になっていった。
色んな話をした。
くだらない出来事、過去の恋愛、生い立ち。
お互い下心なんて一切なかった。
ユキさんは私を完全にガキ扱いしていたし、
「お前は本当にいっつもニコニコしてて気も利くし頭もいい。かわいいし。モテるだろ?でもな〜俺は騙されねえよ?笑」とも言われた。
外面良くするのだけは昔から得意だった。それを見抜かれてたことにびっくりした。
「俺は、女信用してないし面倒だと思ってる」
ユキさんの本音。
元カノが、隠れてずっとほかの男の人と連絡を取っていたことがあるらしい。
------気づいてくれた日
ある日の帰り際、「お前、なんかあったか?」と聞かれた。
確かに図星だったけど、完璧に隠しているつもりだった。他の誰にも、気づかれたことはなかったのに。「大丈夫です」とだけいびつな笑顔で返した。「本当だな?」
ユキさんの真っすぐな目に、動揺した。大丈夫じゃないって、ばれてた。同時に、気付いてくれたことを心のどこかで嬉しく思う自分がいた。
------触れてしまった日
遅くまで話しこんで、帰りに、ユキさんが車で送ってくれることが増えた。
そこから更にコンビニに車を停めて、夜明けまで話すこともあった。
ユキさんの隣は、居心地が良かった。多分彼も、そう思っていてくれた。
お互い、本当は寂しがりなことに、どこかで気付いていた。
彼の隣は安心したし、何故だか彼の匂いに、とても惹かれた。
さすがにお互い眠くて、後ろの座席で寝ることも何回か。
そんなある日、舟をこいでいる私を見て、彼が無言で肩を貸してくれた。
そこにいやらしさは欠片もなくて。そのまま二人で寄り添って朝まで眠った。
次の週だったか、また後ろの座席で寝た。とても寒い日だった。
彼が、膝枕をして、ブランケットをかけてくれた。
お互い何も言わず、何もせず。そのまま眠った。
とても幸せだった。
------踏み込んでしまった日
私もユキさんも、映画が好きで。練習の後、練習場に泊まって一緒に観ようという話になった。
映画を見終わって、寝ることになった。
私にベッドを譲ってくれたけれど、何の気なしに隣で寝るよう言った。ユキさんなら何もしてこない確信があった。
お互いに背を向けて、一緒に横になった。
ふと、すぐそこにいるユキさんに、触れたいと、思ってしまった。
背を向けたまま、少しだけ近づいた。背中が触れた。彼がこちら側を向くのが分かった。後ろから、抱きしめてくれた。その腕を、抱きしめ返した。
無言。
前に、「お前はいい子ちゃんすぎる。もっと我儘なくらいが可愛げがある」、と言われたのを思い出した。
「・・・ユキさん、前に我儘いった方が可愛げあるって、言ってましたよね」「ん?」「我儘言っていいですか。」
「・・・ちゅーして。」
「・・・お前、何言ってんの。」
振り向いて、キスしてやった。
「・・・おい、ふざけんな。止まんなくなるからやめろ。」「止めなくていいです」
そこから、しばらく、夢中でキスをした。
そうして、そのまま抱きしめあって、「バカだなーお前」って笑われて、「バカですねえ」って笑って。「さっきのもう一回言ってみ?我儘言っていいですかーって笑」「うううるさいですよ!!笑」「かわいいなあオイ」からかわれて、急に恥ずかしくなって。
そのまま、それ以上のことは何もせずに、寄り添って眠った。
------打ち明けた日
ユキさんと、よく泊まるようになった。
そうして、ハグして、キスして、眠る。それ以上のことは、相変わらずなかった。お互い、好きと言葉にすることも、核心に触れることもなかった。
でもある日、ふとハグして横になっていたら、
「お前がさ、彼氏いらない、子供いらない、って言ってたの。あれ、何でなんだ?」
嘘はつきたくなかったけど、答えたくなかった。
「何かあったんだろ、お前。話してみろって。」
はぐらかす私に、あきらめずに何度も何度も言う彼。
彼は、踏み込んでくれようとしていた。
怖くて怖くて仕方なかったけど、つっかえながらも、ついに、話してしまった。
父親のついて。生涯、誰にも打ち明けることはないと思っていた。
ユキさんは相槌を打ちながら静かに話を聞いてくれて。
力いっぱい抱きしめて、キスをしてくれた。
「汚いわけあるか、アホ」
私のことをアホ呼ばわりする癖ができたのは、今思えばこの時からだ。
そうして、私の服を脱がせて、上から下へ、優しくキスを落としてくれた。
「きれいだよ。お前は。分かったか?」
夢でも見てるのかと思った。
あんな話をしたら誰もが引くと思っていた。なのに。
「大丈夫だから。そばいてやる。」
救い出してくれる誰かを、本当はずっとずっとずっと待っていた。
10/19 00:53
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