「あっ、朝霞クン来てくれてありがとう」
「どうしたんだ突然。話したいことがあるからって」
「とりあえず、ご飯食べながらにしない?」
学食は寒すぎるから、同じ学内でも寒くない寿さし屋へ。ラーメンを注文して、それを食う。尤も、俺は食ってる間に喋らない派だから山口が喋ってるのを聞いてるだけになるのだけど、全く問題ない。
「あのさあ、今度遊びに行かない?」
咀嚼していた麺を一旦飲み込み、箸を置く。どっちにしても、ラーメンはまだ熱くて食べられないのだ。
「遊びに?」
「うん。で、ちょっと考えてたんだけど、1日じゃ収まり切らなかったから泊まりでさ」
「また大規模だな。とりあえず、どんな計画を立ててたんだ?」
「えっとね。アウトレットで買い物するでしょ? おばなの里でイルミネーション見るでしょ、ビール園行って温泉入って、遊園地って感じ」
「それは確かに収まり切らないな」
「エリア越えだしね」
ただ、そういう遊び方はあまりやってないし、断る理由もないからその誘いには行きますと返事をした。宿や交通手段に関しても山口は段取りを考えてくれているようで、俺は当日来てくれればいいだけだからと念を押される。
「って言うか、いつ行くんだ?」
「24、25」
「って言うと……何曜日だっけ」
「月、火だね。月曜は振替休日。朝霞クン火曜日授業大丈夫?」
「まあ、大丈夫だ」
「よかった」
本当は授業があるんだけど、授業と何かを天秤にかけて、その何かの方が重ければ授業を捨てることもある。その何かが何かっていうのはその時々によって変わるけど、ステージとか、今なら山口との遊びの計画だとか。授業より優先したい事柄が出て来れば、それはそうとして仕方ないとも思う。
とにかく、今回は山口優先で。言って火曜3限なんかそんなにな。うん、まあ。最終的にレポートさえちゃんとしてればオッケーなタイプの授業だからっていうのもあるよな。その辺は気合で何とかする。レポートは得意だし。
「宿はもう取ってあるのか?」
「うん、ばっちり。ちなみに、星港から直通のバスが片道1060円であるから、それで行くつもりだよ」
「バスが出てるんだな」
「まあ、その辺のことは俺に任せといてよ」
星港から1060円なら全然安いし、後は宿代か。平日ならそんなに高くないような印象があるけど、土日や年末年始だとかゴールデンウィークみたいなときはどうしても1泊分の値段が上がってしまうだろうし。その辺のこともしっかりと聞いて行く。
「山口、ちょっと確認いいか。宿代だけど」
「頑張ったよ、1人4000円で泊まれるトコ取った」
「すげえな。言っても年末だし、しかもクリスマス時なんかそうそう取れなくないか?」
「連休最終日とかはね、案外取れたりするんだよね」
「へえ、そうなのか」
「それに、部屋があるうちにもう押さえといたから」
「つか、いつから考えてたんだ」
「その辺は内緒。でね、このプランなんだけどね」
――と山口がスマホの画面を見せてくれる。確かに値段は2人で8000円と書かれていて、それを読み込んでいくと、各種アメニティもしっかりしているし無料で朝食が食べられるサービスもあると書いてある。至れり尽くせりだ。
ただ、ひとつ気になることがある。この部屋の写真と「1ベッドルーム/シングルスタンダード」と書かれたプランの名前だ。どこからどう見てもベッドは1つしかない。いや、もしかしてこの部屋を2つ取ってあって、別の部屋で寝るとかそんなようなことか?
「えっと、ひとついいか」
「うん」
「この部屋、ベッドがひとつしかないけど。2部屋取ったみたいなことか?」
「ううん、1部屋。実質セミダブル的な? あ、でも結構大きいベッドらしいから。ゴメンね、俺も取ってからそういうプランだったって気付いてさ。取り直そうと思った頃には値段がバーンってなってて。それによっぽど朝霞クンが嫌なら俺が雑魚寝すればいっかと思って」
「いや、まあ、別に雑魚寝はしなくていいけど」
「あっ、VODもあるからね! 好きなだけ映画も見てもらってさ」
「それは楽しみだ」
「朝霞クンが映画いっぱい見ることを前提にチェックアウトもちょっと遅めのプランだし」
「え、何か悪いな」
「宿を調べてたらもうちょっと安いところがあって、ここだと思って予約しようとしたらラブホだったんだよ。ラブホよりはセミダブルの普通のビジホの方がいいでしょ?」
「ラブホ女子会なんて文化もあるらしいし、ラブホ男子会があってもいいんじゃないか? いや、ラブホの方が良かったってことでもないぞ。いや待てよ、ラブホに行く機会なんてないし後学のためには1回潜入しておくのも手だったか? いやしかしラブホに行くからにはその目的が」
「朝霞クン戻って来て!」
パチンと目の前で手を叩かれ、ラブホ連呼しないでご飯食べてくださいと言われて初めてラーメンを放置し過ぎていたことに気付く。すっかり伸びてしまった麺を口に運びながら、山口のプランを改めて聞くターンに回るのだ。
アウトレットでの買い物では自分の選んだアイテムを元に俺が全体のコーディネートを組み立てるとか、イルミネーションの迫力を間近で味わいたいとか。ステージのためではなく、純粋に遊びとして出掛けたいのだと。俺はビール園と温泉も楽しみだ。
「とりあえず、それまでの間に俺はめっちゃバイトしないとな」
「朝霞クン、死なない程度に頑張って」
end.
++++
ラブホ連呼してないでさっさとラーメン食え
今年度の洋朝は、どっちかと言うと朝霞Pが天然過ぎてちょっとアレな感じがしますね。天然たらしかコイツ
年度によって洋朝の年末旅行のお部屋も少し違うと楽しいね。去年までは普通にツインのつもりだったけど、調べてたらね、ついうっかり