「……〜っ…! チッ」
人が気持ちよく寝てたのに、真上からは掃除機を掛ける音だの布団を叩く音だのが容赦なく降り注ぐ。古くて狭いアパートだけに多少の生活音はしょうがないとは言え、現在時刻は朝の9時。いくら何でも活動を開始するには早すぎるだろう。
俺が生活の中で何を大切にしているのかと言えば、睡眠の時間だ。ベッドや布団、枕といった寝具には当然こだわりがあるし、日々の手入れもしっかりとしている。ベッドは俺にとっての聖域で、他の人間は断じて上がらせない。そもそも、部屋に他人を入れることがそうないのだが。
その睡眠の時間を阻害されてしまったからには、俺は抗議をしなければならないだろう。その辺にあった適当な棒を手に取り、騒音の元である真上目掛けて一突き。天井を棒で突くというのは、上から見れば床を突かれているということだ。この抗議には一定の効果がある。
だが、音が止んだのは一瞬だった。次の瞬間にはまた掃除機をかけているのであろう歩幅の振動が伝わる。真上の住人がこだわっているのは掃除道具だ。掃除機にしても音の少ない最新式。機械の音自体は軽減出来ても、それを扱う人間の発する音は変わらず響き続けるのだ。