パンケーキ
マエノスベテ9
2022.8.23
00:34
話題:創作小説
71
そんな風にしてルートを辿ったぼくらはどうにか追っ手を巻いてから、スーパーに隣接する映画館に向かった。
「しっかし、デートね……」
人を好きになる気持ちがわからないぼくには理解しがたい。
一緒に出掛けてなにが面白いんだろうか。
映画くらい一人でも見られる。家で「あの子」の横にずっと座って本を読んでいるだけでさえ、いっぱいいっぱいなのだから、予測の付かない、こんな、広場に出掛けたらそれこそ感情のやり場に困って、おかしくなりそうだ。
「彼女は、こういうこと、あまり好きな風に見えないけど……」
「そう。だからさ、解決のために、来てもらったんだ。
これは、彼女を一度あの家から離すため」
彼が冷静に答える。
あ。なんだ、そういう打ち合わせか。
「まぁ、きみと居るだけでも、既に誤解が危なそうだけど」
彼は髪が長くあと顔立ちも、睫毛が長くてしゅっとしており服装も袴みたいなスカートみたいなのをよく着ているので、一見性別を見まがうのだが、人嫌いのぼくとつるんでいる理由も、少し、近い部分がある。
まあワケがあるというやつだ。
「誤解はある意味じゃ救いにもなる、だろ?」
「まあ、そういうことだけど、ね」
お互い、他人を寄せ付けるのがめんどくさいからこそ、こうして気が合い、それらしくつるんでいる。
彼も肩をすくめる。
「でも、今は、作戦の邪魔になるかもな」
ぼくは彼を無視してため息を吐く。
「はぁーあ。第二次世界対戦前は、見合い結婚が主流だったらしいのに、何をどう間違ったのか」
ワケがあって『自由な意思』自体が破壊、崩壊寸前なぼくには今の社会はとても難儀する。
何を感じて、何を行動するのか、受け入れられないのだ。
昭和20年代には見合いが七割だったらしい。その辺りは保守したってよかったんじゃなかろうか。
今さら言っても、無駄だけどね。
「コスパとかいう問題じゃないんだよなぁ、これ。ドット画面から、急に画質のいい3Dゲームになって世界観が急に掴むの時間かかるようになったくらい、
そう容易い話じゃないってのに、理解できないやつらが哀れだよ。電源つけただけで、すぐ動けると思ってんのかね。こっちはどこまでが風景で、どこまでが移動マップなのかもわかりづらいんだよな」
「その例えもわからない人にはわからないぞ」
「うー、なんか、飲み物買おうぜ」
2019/06/11 13:18
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ちなみに、まだスーパーの近くである。変にデザイン性だけはある建物で、玄関神殿のエンタブラチュアの前でうろうろしていたところだ。
ついでいうとその奥は、期待を裏切る味気ない自動ドアと、カートがあるコーナーである。
すぐ外に曲がれば、自販機があった。
中にもジュースあるだろ、とこの国でつっこんでもさほど意味はない。
彼は時計を確認する。案外に近道だったようで予定よりも早くついたらしい。
あと15分ほどの余裕があった。
「とはいえ5分前には行く予定だから暇は5分程度かな」
なんていう彼が、店内入り口近くにあるキカイを指差した。
『うさぎさんとかめさん、よーいドン!』
と書いてあり、コインを入れる場所がある、アレである。
「賭けをしよう」
「……今? 奢れないんだけど」
彼は特に答えず、財布を取り出す。150円ぼくに渡してから、200円を、よーいドン!につぎ込んだ。
にぎやかな音楽で画面が切り替わる。次に、まず、うさぎさんとかめさん、どっちを応援するかをボタンで選ぶ。
「どうする?」
「じゃ、うさぎさん」
彼が、うさぎさんを選ぶ。
コースに、実際うさぎさんとかめさんのフィギュア?
がならんでおり、連動して前進する。前方にはゴールがある。やがて、画面が変わり、二匹(一羽と一匹?)が、ぴこぴこと動き出した。
途中の石や、仲間の妨害、様々な苦難を乗り越え――
なんだかんだで選ばれたのは、うさぎさんだった。
ちなみに、かめさんも勝つときもあるためこれに動物としての性能は関係ない。
「ラッキーだな」
ぼくが呟いていると、店員を呼んでください、と書いてあったのを見たらしい彼が何かもらいにいった。その間にぼくはお茶を買い、少し飲んだ。
「ただいま」
「なんだった?」
「大理石のフィリップス・アラブスみたいなおばちゃんが、こんにゃくゼリーと、チョコレートくれた」
「誰だ?」
「昔の人」
2019/06/11 16:08
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