2013/8/7 Wed 01:50
鉄の檻の外はまた違う檻で囲まれていた

話題:創作世界披露会及び創作メモ帳
全然まったく関係ないパロディ。
奴隷とか、そんな話。



冷たい檻の中から見える世界が当時の僕の全てだった。
そこから僕を連れだした(買った)のは今の旦那様だ。
少し広くなった檻。
僕は旦那様の部屋の中で過ごすようになった。
外へは出られない。
出てはいけない、そう言われていた。
1ヶ月経っただろうか?
旦那様の部屋に誰かが怒鳴り込んできた。
女の人だ。
彼女は旦那様の妻だった。

「仕事を手伝わせる為に男の奴隷を買ったって言ってたわよね!」

奥様は僕を睨んだ。
その怖い顔に僕は怯えて、竦んで、震えた。

「買ったって言ってたのに私には会わせようとしないから怪しいと思っていたのよっ」

奥様は僕の腹を力一杯蹴飛ばした。
僕は少し飛ばされて、床に転がる。
蹴られたところが穴が開いたのではないかと思うぐらいに痛んだ。
またすぐに奥様は僕を踏みつけるように蹴った。
背中を丸くして痛みに耐える。
どうやら奥様は僕の顔が嫌いな様だった。
気が済むまで暴言と暴力は続いた。

その日から僕はこの家の仕事をするようになった。
だけど、家事などは産まれてこの方したことがない。
お茶ぐらいは淹れられるのだけど、料理は出来ない。
言葉も聞く分には困らないのだが、話すのは少し不自由だった。
教育など受けていないのだから仕方ない。
元々嫌われている僕が奥様の癇に障るのは必須で、暫く僕の身体に青痣が絶えなかった。
その週のうちに奥様が知らない青年を連れてきた。

「奥様からヘンリーという名を頂きました」

青年ヘンリーは恭しく頭を下げる。
旦那様はその青年を見ると「ふん」と鼻を鳴らして自室に籠られてしまった。
後で旦那様の部屋に呼ばれた時に聞いたのだけど、ヘンリーは旦那様と奥様の子にそっくりなのだと言う。

「ただ、本当に俺の子であるかは怪しいかったがな」

そして本当のヘンリーはもうこの世にはいないとも言っていた。
連れてこられたヘンリーはとても頭が良く、何でも完璧にこなした。
僕にも仕事のやり方を教えてくれた。
僕たち2人は同じ部屋を宛行わていたが、大体夜になればお互いの主人の部屋に呼ばれるから話す時間は多く無かった。
ある日、旦那様の仕事の都合で、旦那様と奥様が家を空けることになった。
僕たちは留守番を仰せつかる。
初めてヘンリーと2人で過ごした。

「ねぇ、君の名前は何て言うの?」

ヘンリーが初めて聞いてきたのはそんな質問だった。
僕は困惑する。
ヘンリーはそんな僕を見て質問を変えた。

「君は旦那様に何て呼ばれているの?」

僕にとってはそちらの方が適切な質問だ。
ヘンリーは本当に頭が良いと思う。

「旦那様、僕を、パム、呼ぶ」
「そっか」

ヘンリーはニッコリと笑い僕の頭を撫でようと、手を伸ばす。
僕の身体はビクリと震えて硬直した。
その様子にヘンリーは驚いた顔をする。

「大丈夫だよ、パム」

ヘンリーは伸ばしかけた手で僕を抱きしめた。
そして何度も「大丈夫」と囁くのだけど、僕の震えが止まる事はない。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

僕は壊れたようにその言葉を繰り返す。
その度にまたヘンリーが「大丈夫」と言うのだけど、きっと僕の耳には届いていない。
だって僕は"大丈夫"という言葉の意味が分からなかったのだから。
その夜は泣きじゃくった僕をヘンリーが一晩中抱きかかえたまま眠りに落ちていた。
僕にとってそれが初めての暖かいと思える夜だった。


 


おわる





パムについて追記て語ってみる。



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