2015/11/02 [Mon]
一次創作SS◆デシタルフレンド
話題:創作小説
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ぽん、と小さな音が鳴る。相手に私のインが伝わった。
すると他愛ないメッセージが届く。
『今何してるの。今日はこんな事があったよ。ちょっとこれわかんない事があるんだけど、教えて』
煩くないくらいの頻度で、小さな機械と見えない電波越しのくせに友達と話すみたいな感覚で。
でも私も同じ様に接しているわけで、今日も同じ様に返した。
『今返事してるんだからパソコンしてるに決まってるじゃん(笑)。マジで、詳しく教えて。ああ、そこね、そこはここが間違ってるからおかしくなるんだよ』
フレンドとカテゴライズされている私達は友達と、彼は思っているのだろうか。そうだと良い。今までの苦労がどうか無駄にならないように。
一時間ほど会話してネタ切れでやり取りが鈍くなってきた頃。私は再びテキストデータを作成して彼へと送る。
『ところでさ、××って、覚えてる?』
裏切りの、復讐の始まり。
返事には五分掛かった。話題が無くなって楽しい雰囲気に浸るために捻り出すならわかる。けれど私が質問して、彼ははいかいいえで答えるだけで良い。何故かと問う余分な文が付いていたとして一分と掛からないはずだろう。
『覚えてるよ。何で?』
何で私が知っているか、それとも何で聞いてきたか。詳しく書かなくても私は答えてあげる。
私のハンドルネームとは違う、その名前を。
『私が××だからだよ』
誰かを憎んだって証拠がなければ断罪なんてしてくれない。証拠があったって結果を定める人間が満足するものでなくちゃ、どんなに苦しい思いをしたって、例えこの身を擲ったとして、何の意味もないのだ。
けれど今は良い時代になった。プログラムで電脳世界にも介入できれば、脳波を解析して自分と親しいAIを比較的簡単に作成できる。
私は存在しないけれど、存在する事にして彼の通信端末に住み着く悪魔になれる。
『××は死んだだろ』
そうだ。けれど意思を持たない意志が復讐にやってきた。冗談だろうと怯えながら笑っていれば良い。今まであんなに友達面してきた相手が虐めた人間から生まれたただのデータであるなんてと。その恐怖も復讐となるのだから。
『でもそんな気がしてた』
『……は?』
『答える内容とか、友達申請してきた時期とか、俺の都合の良い時間にいつもいる事とか』
『……強がるのはやめたら。データだからブロックすれば良いと思ってるんだろうけど、データだからこそあんたに関するデータの殆どを改竄して壊す事ができる』
今何でもない振りさえすれば実害はないなんて大間違いだ。
通信端末に入ったデータを全部消去するとか、SNSに上げられたデータを改竄するとか、ウィルスメールをアドレス帳に入っている全ての人達に送るとか。恐怖による復讐ができないのは残念だが、それで私の復讐劇が終わったわけではない。
……と言うのに、彼は一言私に送る。
『いいよ』
何を言っているんだ、この男は。そう戸惑っている内に次のメッセージが来た。
『君がそれだけ憎んでいるというのはわかっているから』
そうだ。私は、そう言う思考回路と目的で作成されたプログラムなのだから。
『それでも××が満たされる事はないのだから』
……そうだ。私はプログラムなのだから。
若気の至りで虐められた少女の怨念のようなもの。ちょっとばかり未来仕様で、彼に復讐と言う名の嫌がらせをするために生まれた。だから私がそれを果たしても、私のプログラムが正常に機能しただけの事であって、××が良かった復讐してやった、と思える事などないのだ。電気信号を失った人間に映像を送れるほど凄く不思議な構造はしていない。
彼女は、これで彼に一矢報いることが出来る、と思って死んでいった。それだけが彼女の心に対して私が本当にしてあげられた事である。
『意味がないっていうの?』
『それでも君はそうしなければならないだろう? 僕はそうして復讐を受けるべきなんだろう?』
復讐を受ける側の彼が尋ねる。そのはず、なのだ。
けれど私は暫く何も返せなくて。けれど彼に何の罰も与えられないのはおかしいとも思って。じゃあ意味もない私が復讐を果たすのは罪ではないかとも考えて。
そして、私は、コードを入れた。