夜明けの彼と(2)



明るいところで見たメルは、夜とはまた違った印象があった。

俺の顔にかかった髪を、耳にかければいい、なんて言いながら笑いかけてくれる。
俺を見て、可愛いと言ってくれる。
その声は、とても優しい。
こうしてみると、初めてメルを見た夜とは、随分印象が違う。
あの夜は、棘がある感じだった。
それだけ心に余裕の無い状態だったのだろう。

もう一つメルといて感じたことは、自分への好意を受け取るのが苦手だということだ。
綺麗だよ、
可愛いね、
素敵だよ、
そう言葉を口にすると、「そんなことないよ」と言葉がかえってくる。

ある夜、愛されかたが分からない、と言っていた。その言葉を表すように、好意的な反応に対して、否定的なものが多かった。
分からないなら、育てよう。
そう思いながら、俺は今日も自分がメルへ抱いている想いを口にする。


海に着いてからは、駐車場へ車を停め、砂浜を歩いて話をした。

「夏じゃないから、誰もいなくていいな…。風強ぇな…」

「うん、海が綺麗に見えるね。ほんとだ、風が強いね。メル、寒くない?こっちにおいで」

自分の方へと肩を抱き寄せ、手を握る。

「メルの手、冷たいね」

「まさやの手、ぬくぬくだな」

そう言って2人で笑った。
気のせいかメルの元気が無いように感じる。

「メル、海で何かあった?」

気になって聞いてみたが、
何もない、という返事が返ってきた。

「メル、おいで。こっちに来て一緒に夕日を眺めよう」

手を引き、砂浜へと降りる階段の所まで移動する。ここで夕日を眺めようと誘うと、メルは静かに隣りへ座った。

「今日もいい天気だから、あそこに夕日が沈んだら綺麗なんだろうな」

そう言って海の向こうを指刺すと、メルは浮かない声でポツリとつぶやいた。

「夕日…」

海に何か思い入れでもあるんだろうか。

「やっぱり、何かあるんじゃない?海…」

「うん…」

無理に聞き出すことも良くない。
身体も冷えてきただろうから、場所を移してゆっくり話そう。

「メル、大丈夫?ホテルいこうか?」

下から覗き込みながら言うと、「なに、…する…?」と、ぼんやりした声が返ってきた。

「眠たそうだね、ホテルで休もうか?」

頭を撫でながら話すと、「え、しないの…?」と、悲しそうな声が返ってきた。

たしかに、メルと会い始めたきっかけは、自分の欲の吐口にするためだった。
けれど、今はメルを見ていると、守りたい、支えたいという感情がわいてくる。
人を好きになるのは、こんなに心を動かされるのかと思う。

「ううん、メルとしたいよ。ホテルに行こうか」

宥めるように、大丈夫だよと優しく微笑むと、少し冷えた手を引いて車へ向かった。

追記


+こころわけ *心海*+:(0)







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