夜明けの彼と(1)




休日、古賀雅也は海へ向かい車を走らせた。
いつもは隣に女性を乗せているが、今日は男性が乗っている。

「明るい時間からメルと会えるのが嬉しい」

俺がそう言うと、助手席に座る彼は少し恥ずかしそうに笑った。

彼の名前はメル。
デリヘルをしているらしい。

これで会ったのは何度目だろうか。

メルと過ごす夜。
時間を重ねる度に見えてくる、寂しさ、哀しみ、不安。行為に求めるものに、どこか自分と重なるところがあると感じた。
居場所を必死に探している、
そんな感じだ。

メルは自分を風だと言った
一夜限りのものだと…
それは寂しい気がして、
今にもいなくなりそうな気がして、
俺は彼の手を引いた。

彼と会う回数を重ねる度、彼のことを知る度に、惹かれていく。
時折感じる優しさに、懐かしさを覚える。
弟と妹がいると言っていたからだろうか。

今までメルとは、ホテルでしか会ったことが無かったから、今日は彼を外に連れ出したいと思った。
デリヘルとしてではなく、メル個人として会いたかった。
もっと心の距離を縮めたい。

愛してると言うと、彼はいつもはぐらかす。

彼は、愛を怖がっているようだ。

その度、彼が話していた「誰でもいいけど、誰でもよくない」と言っていたことを思い出す。俺との距離に、一線を引いていると感じるところだ。

「メル、これ個展のDM」

車に入ってすぐ、近々開催する個展のDMをメルに渡した。

「ありがとう、まさやのお兄さんに必ず渡すから」

そう言ってDMを受け取ると、彼は俺が書いた絵を興味深く見て、いろいろと聞いてくれた。
メルに個展のDMを渡したのは、長年仲が悪く、疎遠状態にあった兄、古賀鎮也との仲をとりもってくれると言ってくれたからだ。

メルは兄を客として知っているようだった。
彼から聞く兄の話しは、自分が思い描いていたものとは違ったものだった。
メルと話していると、兄に対して抱いていた感情、胸のつったかえたような感覚が軽くなったようだ。単純だろうか…
俺は、ずっと兄を許すきっかけが欲しかったのかもしれない。


「メルは、弟さんと話す機会は無いの?」

「遠いところに住んでいるから…、話す機会も無いかな」

自分がこんな仕事をしているなんて、言えないだろうと苦笑いを浮かべ話した。

「でも、この仕事をするのに理由があったんだろ?」

「まあね…」

濁した答えが返ってきた。

メルはたまに自分のことを話してくれる。
はぐらかされることの方が多いけれど、その中で、家族に対しての話題には複雑な気持ちを感じることが多かった。
生い立ちを全て知るわけではないが、メルと話しているときは、家族からの疎外感を強く感じる。

何も知らない自分に出来ることは少ない。
そんな自分にもどかしさを感じるが、今は彼の気持ちを聞きながら、少しずつ距離を近づけていけたらと思う。


海に着くまで、互いに他愛もない話しをして笑いあう。

この時間に幸せを感じる。

メルにとっても、
この時間がそうあってくれたら嬉しい。

そう思いながら車を走らせた。


追記


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