編纂者(伝勇伝)
2017/12/03 20:53
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子どもの頃、私は一人の悪魔に恋をした。醜いからと蔑まれ、孤独に追いやられ、それでも誰かの存在を欲し、夢を見続けたひどく寂しがり屋で、悲しいくらいに優しい悪魔。物語が終局に向かうたびに、私は何度も涙を流した。

「どうして?どうしてこんなに優しいのに、みんな悪魔さんを一人にしたの?悪魔さんがかわいそう。私だったら、私だったら勇者みたいなことしないのに。私だったら、ずっと傍にいてあげるのに」

貪欲に世界を救おうとする黒い勇者よりも、友人のためにその身を二度も捧げ、友人の為に生きる喜びを抱きしめて、永遠の地獄に堕ちた悪魔の方が私は愛しくて、彼の存在があまりに哀れで、泣いたのだ。自分だったら、悪魔にそんな道を歩かせないのに。自分がもし悪魔に会ったら、そのときは友達になってほしいと手を差し伸べるのにと、熱心に親に語った。寝物語代わりに読んでいた、それは世界のトップシークレット。我が家が代々管理をしていた世界の歴史。両親が亡くなった今、領民とともに、私が守っていかなければならないものたちだ。当主しか持ちえない特別な鍵を首に下げたまま、それに触れる。まだ、私は悪魔にも勇者にも会っていない。私の代に現れるかもわからない。けれど、私は悪魔に焦がれるのだ。愚かなほどに優しいあの存在に会ってみたいと。彼の傍にいて、彼に傍にいてほしい。とてもとても優しい彼の近くは大層居心地がよさそうだから。そうして、私は彼に出会った。銀紫の髪を持つ、細面のやわらかい顔立ちをした青年に。

「この国で、こんな時間に一人で出歩くのは危ないですよお嬢さん」

今までにしていた懺悔と後悔という名の自己満足、白昼夢のように思い出していた幼いころの夢。そこから現実に引き戻される。うっすらと闇色かかる夕焼けの中に彼は立っていた。

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。ここは、ギネヴィア家の領内ですから」

「ああ、確かに。ここは、ほかの地よりもずっと治安がいいと聞きます」

「あなたは、ほかの地の方なんですね。なら、あなたの方こそ早く宿へ戻らないと。暗くなれば道は昼とは違って映ります。人気もどんどんなくなりますし、道に迷ってはことですよ。私はこれで」

「ありがとうございます。では」

たわいもない短い邂逅。彼と別れて通い慣れた道を駆ける。思ったよりも長居をしてしまったから、城を留守にしすぎた。物思いにふける時間が長すぎたのだ。きっとみんなを心配させてしまっている。急がないと。落ちかけている陽の高さでおおよその時間を予測して走る。治安の良さは自分の治める地であるから折り紙つきで保障できるけれど、それでも父や母のようなことになり得る可能性はあった。警戒をするに越したことはない。門限を破ってしまった子どものように、心配してくれているであろう人たちからの叱責をいまさらながら想像して##name_3##は来た道を急いで取って返し始めた。

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