逢魔時奇譚【14話(4)】
その頃、ハラエ駅南通りカフェーーー
「ねっ?ねっ?デビューしたての12歳ゆきにゃんマジ天使だよねぇ??どう?どう?今も天使だけどぉ、デビュー当時からゆきにゃんはマジ天使だと思わなぁい?!」
賑やかなカフェの奥の席。和夫から貰った由輝写真集を、手をプルプルさせて顔を真っ赤にして見ている奏。デビューしたて12歳の水着の由輝のページが映る奏の瞳はぐるぐる回っている。
「…マジ天使…ですっ…!!」
「わぁ〜!やっぱりチミ、話しが分っかるねぇ〜!」
同じ頃、天音が奏を"水着撮影を心配してくれる真面目さが奏らしくて良いところ"と思っているのに、一方の奏は天音の水着写真に赤面しながらも食い入るようにガン見している事など天音は知らない…。
「ねぇねぇ!ぼくはHRE26デビュー時からゆきにゃんのファンっていうかぁ彼ぴっぴだけど〜、チミはいつからゆきにゃんのファンなのぉ??」
「……。…知ったのも…つい…最近…で…。先月末から…です…」
ーー…うわぁ…現実と…妄想の区別がつかなくなってる…。こういうファンの相手…しなきゃなんて…大変だなぁ…ーー
「えぇえ!?そんな新規ファンなのぉ?!グフッ!グフフ!じゃあぼくの方がチミより、ゆきにゃんを知ってるワケだぁ」
「…そ…そう…ですね…」
ーー…うわぁ…臭いし…気持ち悪いよ…。写真集に釣られた…僕が悪いけど…。帰りたい…。天人助けてよ…ーー
「チミ、時間まだ大丈夫かなぁ?」
「…あと…6時間くらい…」
「あっはっはぁ〜!それなら充分だねぇ。ぼくの家すぐ其処だし、家ならゆきにゃんグッズたぁくさんあるからさぁ〜遊びにおいでよ」

和夫の自宅ーーーーーー
和夫に連れられやって来たのは、ハラエ駅裏をずっと真っ直ぐ進んで路地裏に入った寂れた住宅街。まだ木の電柱が現役で、そこら中に野良猫が屯し、カラスがごみステーションを荒らしている。和夫が向けた手の先には、廃屋と見間違えても仕方ない程ボロボロで木造の平屋。
「和夫!今まで何処をほっつき歩いていたんだい!?」
すると、キッチンから、白髪の痩せ細った母親が飛び出してきた。
「ぼくは今友達と、ゆきにゃんを語り合うんだ!」
「お父さんの年金をまたアイドルグループのグッズやイベントに使ってきたのかい!?」
「うるせぇ!俺の人生だぁ!口出しするんじゃねぇ!!」
母の背後の和室には、色白で痩せ細った父が布団で寝ている姿が奏にも見えた。
「お父さんが病気で早期退職して、お父さんの僅かな年金と私のパート代で生活を切り詰めていこうと思っても…!職にも就こうとしない無職のお前がお父さんの年金を毎日毎日好きなアイドルグループに費やしていたら、毎日の生活どころかお父さんの治療費すら払えていないんだよ…!?それでもお前は良いと思っているんだね…!?」
「汚ねぇ手で触るんじゃねぇ!!放せババァ!!」
ドガッ!!
「きゃあ!!」
和夫が蹴飛ばせば、痩せ細った母はその場に座り込み、シクシク涙を流す。