タイトルなし

逢魔時奇譚【14話(5)】
「…!」
母の前に手が差し伸べられた。奏だ。
「…あの…。大丈夫…です…か…怪我…とか…」
「良いよ良いよそのくらい大丈夫だよぉ〜」
ぐいっ、和夫の太い腕に掴まれてしまい奏は引き摺られるように階段を登っていく。
「あんな汚いババァは放っておいてぇ〜早く一緒にゆきにゃんを語り合おうよぉ〜」
「あ…。ありがとうね、坊や…」
奏の瞳には廊下で座り込み俯いて悲しく泣く和夫の母の姿だけが映っていた。

2階、和夫の部屋ーーーーーー
私服まで由輝の顔写真シャツを着ているから、自室は一面由輝のポスターやグッズでいっぱいかと思っていたが、グッズらしきものが一切見当たらない極普通の室内に、逆に奏はおどろかされた。ベッドに腰掛ける奏。正面に居る和夫が机の引き出しから何かを探している様子が伺える。
「…あの…家族を…蔑ろにした…お金で…応援されて…も…。神堂…さんは…喜ばない…、と思います…」
「……」
ガサガサ、まだ和夫は背を向けたまま引き出しの中を漁る。
「…僕…は…、お父さん…と…お母さん…が…もう…居ない…から…。2人…揃ってる…貴方が…すごく羨ましい…です…。…神堂さん…も…両親が…居ない…から…、きっと…貴方を…羨ましい…と思い…ます…」
「……」
「…だから…正義感の塊で…真面目な…神堂さんは…余計…、貴方がしている…事を…悲しく…思う…筈…です…」
「……」
「…同じ…神堂さん…ファン…として…、お父さん…と…お母さんを…蔑ろにする…のは…もう…やめて…下さい…。お父さんも…お母さんも…、貴方の大好きな神堂さん…も…皆が…悲しむだけです…」
「だぁれが正義感の塊でぇ真面目なアイドルだってぇ??」
「え…、」

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逢魔時奇譚【14話(4)】
その頃、ハラエ駅南通りカフェーーー
「ねっ?ねっ?デビューしたての12歳ゆきにゃんマジ天使だよねぇ??どう?どう?今も天使だけどぉ、デビュー当時からゆきにゃんはマジ天使だと思わなぁい?!」
賑やかなカフェの奥の席。和夫から貰った由輝写真集を、手をプルプルさせて顔を真っ赤にして見ている奏。デビューしたて12歳の水着の由輝のページが映る奏の瞳はぐるぐる回っている。
「…マジ天使…ですっ…!!」
「わぁ〜!やっぱりチミ、話しが分っかるねぇ〜!」
同じ頃、天音が奏を"水着撮影を心配してくれる真面目さが奏らしくて良いところ"と思っているのに、一方の奏は天音の水着写真に赤面しながらも食い入るようにガン見している事など天音は知らない…。
「ねぇねぇ!ぼくはHRE26デビュー時からゆきにゃんのファンっていうかぁ彼ぴっぴだけど〜、チミはいつからゆきにゃんのファンなのぉ??」
「……。…知ったのも…つい…最近…で…。先月末から…です…」
ーー…うわぁ…現実と…妄想の区別がつかなくなってる…。こういうファンの相手…しなきゃなんて…大変だなぁ…ーー
「えぇえ!?そんな新規ファンなのぉ?!グフッ!グフフ!じゃあぼくの方がチミより、ゆきにゃんを知ってるワケだぁ」
「…そ…そう…ですね…」
ーー…うわぁ…臭いし…気持ち悪いよ…。写真集に釣られた…僕が悪いけど…。帰りたい…。天人助けてよ…ーー
「チミ、時間まだ大丈夫かなぁ?」
「…あと…6時間くらい…」
「あっはっはぁ〜!それなら充分だねぇ。ぼくの家すぐ其処だし、家ならゆきにゃんグッズたぁくさんあるからさぁ〜遊びにおいでよ」

和夫の自宅ーーーーーー
和夫に連れられやって来たのは、ハラエ駅裏をずっと真っ直ぐ進んで路地裏に入った寂れた住宅街。まだ木の電柱が現役で、そこら中に野良猫が屯し、カラスがごみステーションを荒らしている。和夫が向けた手の先には、廃屋と見間違えても仕方ない程ボロボロで木造の平屋。
「和夫!今まで何処をほっつき歩いていたんだい!?」
すると、キッチンから、白髪の痩せ細った母親が飛び出してきた。
「ぼくは今友達と、ゆきにゃんを語り合うんだ!」
「お父さんの年金をまたアイドルグループのグッズやイベントに使ってきたのかい!?」
「うるせぇ!俺の人生だぁ!口出しするんじゃねぇ!!」
母の背後の和室には、色白で痩せ細った父が布団で寝ている姿が奏にも見えた。
「お父さんが病気で早期退職して、お父さんの僅かな年金と私のパート代で生活を切り詰めていこうと思っても…!職にも就こうとしない無職のお前がお父さんの年金を毎日毎日好きなアイドルグループに費やしていたら、毎日の生活どころかお父さんの治療費すら払えていないんだよ…!?それでもお前は良いと思っているんだね…!?」
「汚ねぇ手で触るんじゃねぇ!!放せババァ!!」
ドガッ!!
「きゃあ!!」
和夫が蹴飛ばせば、痩せ細った母はその場に座り込み、シクシク涙を流す。

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逢魔時奇譚【14話(3)】
『まあ!お前は父さんと母さんの仇だし!?悪魔憑きだし!?アタシが最後はお前を今度こそぶっ殺すし!?だからお前にはアタシへの償いしてもらわねぇと困るし!?』
照れ隠しの天音の発言…ではあったが、昨夜の天音の発言を思い出した途端奏は下を向き、悲しい瞳に変わる。
「…アンタが…祓魔…できなくても…元帥…達が…僕の中の…アドラメレク…を…祓魔…できるようになったら…。いつ…祓魔…されるの…かな…。元帥達は…いつまで僕を…生かして…くれるの…かな…。祓魔…されたら…次こそ…僕は…死ぬ…。…変…だな…。お父さんと…お母さん…が…殺されて…哀しくて…悪魔に憑かれて…。早く…僕も…死んじゃいたい…って…ずっと思ってた…。アンタの…両親の仇…だから…僕とアンタ…は…出逢った…のに…。だから…横田さんと…綾小路さんと…出逢った…。天人とも…再会できた…。今の…状態が…アドラメレクが…憑いてる…この状態…が…ずっと続けば良いのに…な…って…思ってる…。変…だな…、今は…まだ…死にたくない…って…毎日思うんだ…。変…だな…」
「やあ!」
「…?」
足音がして陽気な声がして。顔を上げる。由輝の顔写真がでかでかプリントされたシャツを着て、リュックには由輝の缶バッジにキーホルダーがジャラジャラついた和夫が、にこやかに声を掛けてきた。
ーー…うわっ…。昨日…握手会に居た…握手券20枚…ーー
何故か変な対抗心を抱く奏。
「チミ、昨日ゆきにゃんの握手会でぼくの前に居た子だよねぇ?!」
「…はい…」
「今から時間あるかなぁ?良ければ一緒に、ゆきにゃんを語り合おうよ!悲しいながら、ホラ。ゆきにゃんファンはあまり居ないじゃないかい?だからぼくは、君のように握手券を11枚買う猛者と語り合いたいとずっと夢を描いていたんだ。ぼくと語り合ってくれたら、HRE26デビュー当時にだけ唯一発売したゆきにゃん写真集(現在はオークションにも出回っていない超レア物)をプレゼントしてあげるよ〜!」
「……」

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逢魔時奇譚【14話(2)】
そんな仲睦まじい2人の後ろ姿を人混みに紛れながら睨みつける据わった瞳の和夫が居た。
「あいつら許さないぞぉ…!ぼくが裁いてやる…!あいつらはぼくに裁かれる運命なんだぁああ!!」
 
ハラエスタジオーーーーーー
「うっし。サンキュな」
ハラエスタジオの横にある小路で、天音から由輝に変身する。
「…あ"。けどお前、アタシの撮影終わるまで何処で時間潰すよ?逢魔時町に行って帰ってじゃあキツいよな?しまったー!アタシ、自分の事ばっかり考えてお前の事何も考えてなかったぜ」
「……」
「サイテーだ〜…」
自分の頭を抱える天音。
「…別に…良いよ…」
「いや。良くねーし。アタシ、お前を完全にパシりにしてるだろ。いくらお前がアタシの仇だからって、これは良くねーよ。撮影も最低8時間はかかるって言ってたな、そういや…。やっぱ送りだけで充分だわ!お前、先帰ってろって。帰りはタクシー拾って帰るし」
「…街…散策して…何時間でも…待つ…から…帰り…一緒…に…帰ろう…」
天音はスッ…、と左手を差し出した。由輝の姿なのだが、由輝では有り得ない頬をピンクに染めたツンツンした態度で。
「じゃあよ!帰りも!ストーカーに尾行されねぇよう、手!繋ぎやがれコンチクショウ!!てめぇの握手は何回でも何時間でもタダなんだろ!?」
「…うん…。そう…だよ…。…撮影…頑張って…」

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逢魔時奇譚【14話カナデとアマネ(1)】
「かな!ちゃんあま!気を付けていってらっしゃーーい!!朝帰りになっても天人クンが許すっ!!許しますわよーー!」
「は?そんなに長ぇ仕事じゃねーから18時には着くぜ?」
「…うん…。何で…朝…?」
「さあ?」
マンション玄関でオカンの如くエプロン姿で手を振り見送る天人の言葉の意味が全く分からない奏と天音は、首を傾げながら出て行った。
「は〜。今時純粋なのね〜あの2人は。ま、そこがあの2人らしいっちゃ、らしいんだーけどっ。…せめてっ。かなの結婚式を見られるまで生きさせてくれよなー神様。…って神様から呪いを受けたクセに何言っちゃってるんだろうな、俺。ははっ」


ガシッ、
「!」
「…あんまり…さ…」
前に倒れそうになったところを、左横に移動した奏に左手を掴まれた。お陰で倒れずに済む。
「…人混み…入っていかない方…が…良いと思う…。…アンタは…片腕だし…尚更…」
「お、おうっ…」
「…転んだら…危ない…し…」
「そ、そだよなっ」
「…僕…なら…」
きゅっ…、
「!!」
奏の右手が、天音の左手を握る。パッ!と天音が顔を上げたが、奏はそっぽを向いていた。
「…握手…何分…しても…代金…タダ…だから…」
「ははっ!何だよそれ!ま。そうだよな。お前はイケメンアイドル5代目Starlightでもねぇ、一般ピープルだし?」
「…撮影前…に…転んで…怪我しちゃわない…ように…だよ…。その為…だから…」
「お、おうっ」
「…その為…に…。……。…このまま…手、握ってて…も…良い…?」
ぎゅっ、天音から強く握り返す。天音はニカッ!と白い歯を覗かせて元気に笑った。
「おう!頼むぜ!ボディーガードさんよぉ!」
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