▼0316(不立不連載1)





FFIに向け、イナズマジャパンは雷門中で朝から晩まで練習をしていた。
そんな生活が数日続いたある日の出来事。





「立向居ー!!!そろそろ練習上がるぞー!!!」


「円堂さん!」



もう日が暮れようとしていたときだ。
タイヤ打ちをしている立向居に円堂が声をかけたのだ。手を止めて円堂の方に目をやると笑顔がむけられた。

ずっと憧れていた円堂とようやく日本代表という大舞台で一緒にプレーが出来る、と最初は意気込んでいた立向居だったが、数日の練習の間にいわゆるスランプというものに陥ってしまっていた。
エイリア学園と戦ったときのゴールキーパーとリベロという関係ではなく、今はゴールキーパーどうし。当たり前だがゴールキーパーは1人しか出られない。つまり、片方が出れば、もう片方はベンチ入りが確定する。
キャプテンが円堂ということから見ても、総合的な評価が高いのは円堂の方だと誰もが分かっていた。立向居自身もその意識は常にあった。
立向居は焦っていた。







「もうあがろうぜ!タイヤ打ちは結構体力使うだろ?休むのも大事だぜ?」


「あ…えっと…すみません、もう少しだけ練習したいので、先に行っててください!」


「そうか?…分かった。でも、あんまり無理はするなよ!お前はイナズマジャパンの大事なメンバーなんだからな!」


「はい」






ちくっ、っと胸が痛んだ。

宿舎代わりの校舎に入っていく円堂の背中を見つめる。
円堂さんさえ居ればゴールキーパーは足りるんだし…、俺なんか居ても居なくてもたいして変わらないじゃないか………。



「……はぁ…練習、しよう…」


立向居はタイヤを打ち続けた。



















「はぁ、はぁ、はぁ…もう手が限界だ…」


知らぬ間に、手のひらの感覚がなくなるほど、両手が腫れ上がってしまっていた。
雑念を取り払うかのように、無心でタイヤを打ち続けていたらしい。
疲れがドッと押し寄せ、汗が額を濡らす。校庭の時計は夕食の時間をさしていたが、食欲も出なかった。






「しんどいな……熱中症かな…頭がボーっとする……」



フラフラと校舎の方へ足を運ぶ。中に入ると食堂での皆の楽しそうな会話が廊下までもれていた。



「………いや…だなぁ…」



泣きそうだ。きっと、俺の、すぐにくよくよする性格がだめなんだ。
なんで皆笑ってるんですか…?
なんで俺だけこんなに苦しいんだろう…?
そう考えると、視界が涙で歪んだ気がした。




「……………頭…冷やそう…。風に…あたりたい…」



冗談じゃなく、意識が朦朧としてきた。体も熱い気がする。
おぼつかない足取りで階段をのぼる。屋上はさぞかし風が通って気持ち良いだろう。
三階分の階段をのぼり、屋上につながるドアのノブに手をかける。ノブを右に回すと、カチャ、と音が鳴った。
開けたドアから風がいっきに入り込む。冷たくて、気持ち良い。





屋上に出ると、自分とは違う別の人影が揺れた。


「お前…」



「不動…さん…」


先客が居た。不動明王だ。


「不動さん…、こんなところで…何してるんですか…?」




なかなか気まずい人と2人になってしまった。不動さんとは一回も会話をしたことがない…。それに円堂さんたちとは距離を取ってるような気も…。
でも、俺は………

ドアを閉め、不動の方へ足を進める。



「なにしてたって、お前には関係ないだろ」



「…はは…、そう…ですよね…」



「…?」





立向居は力なくヘラヘラと笑ったあと、その場に座り込んでしまった。
やばいなぁ…頭痛い…。



「おい!どうした!」



立向居の異変に気付いた不動が急いで駆け寄る。




「……はぁ、はぁ…」



汗が止まらない。汗は出ているのに、いっこうに体温が下がらない。足も重くて、動かない。
目の前に居るはずの不動の顔がはっきり見えない。焦点が合っていたいのだ。




「お前体熱いぞ!!大丈夫か!?」


「すみ…ません…」




不動は、自分が飲んでいたペットボトルの水を、首からかけていたタオルに染み込ませ、立向居の首にかけてやった。
冷たくて気持ち良い…。





「おい、靴下脱げるか?」


「……え…?」


「手首足首を冷やす」





頭では理解しているのに腕が動かない。手のひらの感覚が無いせいか、靴下に触れているのか触れていないのかも良く分からなかった。





「…ちっ、世話のやける奴だな」



「すみません……」





不動さんは両手のゴールキーパー用のグローブをはずしてくれた後、靴と靴下も脱がしてくれた。





「水飲めるか?」



「…あ、はい…」




不動から手渡されたペットボトルの水を流し込む。冷たくて、おいしい…。体の内側から熱が抜けていくような感覚がした。





「ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…ぷはー!おいしかったぁ…、

………って……

すすすすすみません!!全部飲んじゃいました!!不動さんのなのに…!!!!!!お、俺はなんてことを…!!!!!!」



「ペットボトルなんかそこらへんの自販機に売ってるっつーの。熱中症患者がそんなこと気にすんな。」



「…すみません…」




ペコペコと頭を下げる。




「ただでさえ暑いのに、そんな熱がこもるような長袖着てるから、こんなことになるんだよ」


「す、すみません…」


「………お前、すみませんしか言えないのかよ…」


「え!?すみません!!」


「………」






「………迷惑かけちゃってすみませんでした…。」




「……別に…。もう平気ならさっさと行けよ…って、おい!!大丈夫か!?」



座っていた立向居の体がぐらっと傾く。手に持っていた空のペットボトルがコロコロと転がった。



「おい!」






「……お腹…」



「お腹?」






「…お腹すいたぁー……スー、スー……」




「……………」




立向居の意識はそこで飛んだ。




※※倶楽部0



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