話題:二次創作小説

 キーアル
 マリベル様視点。



 この広い空の下のどこにも君はいない。

(確かに救われた世界が色褪せて見えるのは、きっと)

 なんでもないよって笑うアルスの表情が、大人がなんでもないと誤魔化す時のそれに見える様になったのは、あの日を境にしてのことだった。
 あたしも、アルスも、ガボも、突然のことに現実を受け入れられなくて、ただ押し付けられる様に渡された荷物の中にあった手紙だけが、唯一あたしたちに残されたあいつの存在した証だった。
 重苦しい気分のまま王様に報告して(冒険に出るのを許さなかったことをとても悔やんでた)、リーサ姫に伝えて(綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めて嘘よと泣いていた)、みんなと別れて家に帰ったあたしをパパたちは心配そうに見てたけど、余裕のなかったあたしにはその優しさが居た堪れなくて、逃げる様に戻った部屋のドアの鍵を閉めたのとほぼ同時に溢れ出した涙を抑えられず、ドアに手をついたままずるずると泣き崩れた。
 苦しくて、悔しくて。だけどきっと、アルスの方がもっと傷付いてる。そう思ったらあの馬鹿のことが憎くて仕方なかった。
 だってアルスは誰よりもあいつのことが大好きだったから。
 
 エスタードのみんなが愛した王子はあの日、サヨナラの言葉もないままこの世界から消えた。