えりまき(げんとのぶ ss)



今年の輝月は短くて、穂月の風も冷たいように感じます。黒界の学生さんたちはみんな、輝月の休暇を終え寮に帰ってくると同時に、半袖の制服の上にはおりものを着て体を温めていました。
「…っんへっくしょん!ぁー…」
おやおや、今、大きなくしゃみをしたのは元くんのようです。今日は一段と冷たい風が吹いています。彼は鼻をすすると、両手を反対側の腕に回し温めるようにさすりました。
「大丈夫?」
元くんに声をかけたのは、となりにいた藤信くんです。
「んぁー…半袖じゃなくて長袖にすりゃよかった…。今日さみぃわ…」
「うん、さみぃ。朝はよかったんやけどね」
「うん…のぶはそれあるから、ホカホカだな」
元くんは手をそのままに、視線を藤信くんに向けました。藤信くんは元くんと同じ服装をしているものの、首には長ーい襟巻きをぬくぬくと巻いています。見ているだけで暖かそうです。
「あ、これ?かさばるけど、持ってきとってよかったっちゃ」
「すげーぬくそう…」
「うん、ぬくかよ!」
「!」
藤信くんは、「ほら!」と言うと襟巻きを半分解き、それで元くんの首をくるっと包みました。
「…元っちさ、やせとるけん。気をつけんな風邪引くよ」
「う、ううううん…うん、そうだなうん」
藤信くんのことが大好きな元くん。まさかの出来事にちょっぴり混乱しているようです。
「このまま電車ごっこしながら帰ろかー」
「う、うん…っえ!?のぶっ」
「しゅっぱーつ!」
「…っ…ぃ…し、しゅ、ぱぁつ…」
元くんは流されるまま、襟巻きに繋がれトコトコトコトコ藤信くんの後ろを歩きました。
嬉しいのか恥ずかしいのか、高鳴る心音もトコトコトコトコ。定まらない視線は、藤信くんの足を踏まないようにと下に向けられました。襟巻きに隠れたお口は、ゆるむ頬を引き締めるようにキュッと結ばれています。
そんな元くんの気持ちなど、なんにも知らない藤信くん。彼が少しでも寒くないようにとくっつこうとするものだから、元くんは本当に風邪でも引いてしまったのではと思うほど、頭から指の先までカッと熱くなってしまったのでした。


えりまき
(語りはサリでした)


「のぶ、こ、この襟巻きさ、ほんと長いよな」
「あはは、やろ?…ちょっとわけありなんよ」
「ふ、ふぅん。でも…あったかいな」
「うん、あったかい」
「…のぶ」
「なん?」
「……ありがと」
「いいんよ、いいんよ」



*Hug !comm0
ちいさなお話*09/25 17:12
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