はなちゃんのたまごやき@



「ぅ、ん…」

お父さんが目を覚ましたのは、すっかりお昼が過ぎ、陽が西に傾き始めたころでした。
目の奥がずっしりと重たく、あまり眠れた気がしません。体を起こすのにも、えらく時間がかかりました。

昨晩から今朝にかけて、お父さんは夜勤でした。深夜の病院もなかなかに忙しいものです。特に昨晩は、救急搬送されてきた患者さんのオペが入り、とてもとても大変なものでした。
その人は、運ばれてきたときにはもう手遅れに近い状態でした。お父さんもその場にいた看護師さんたちも、なんとか助けようと必死でした。
でも、その患者さんは亡くなってしまいました。救急車で一緒に来た家族の人は、お父さんの目の前で、この世の終わりが来たかのように泣いていました。
お父さんは、その時は凛として頭を下げながらも、慈愛の笑みを絶やすことなく家族の人の心に寄り添っていました。
しかし、勤務時間が終え、家に着いた途端、お父さんの心は雪崩が起きたかの如く激しく崩れ、居間に入る手前の廊下の隅で、わんわん声をあげて泣きました。
命を助けられなかったこと、そして重なるあの日のこと。
もう何もかもがぐちゃぐちゃになって、ごめんなさいごめんなさいと、泣きました。
そして、はなちゃんが起きてきて…

冷静になった今でも、お父さんの心はジクジクとしています。

「…はぁ」

情けないなとため息をついて、布団から出ようとすると、寝室の扉の隙間から、居間の丸いテーブルが目に飛び込んできました。
そこには普段ない物が並べられています。
食器を覆うテーブル傘とお薬と、何かの書かれたメモ紙。

お父さんはズリズリ這いながら、居間に向かいました。

つづく…

はなちゃんの卵焼き
【まにまに!】
お父さんとはな

*BGM*
「smile(piano)」youtu.be

*Hug !comm0
ちいさなお話*09/22 21:07
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