まにまに!@



白い日差しがまっすぐと天から降り、少しひんやりする空気を輝かせていたある朝のこと。
登校時間にはまだ早い、しずかな学校内をみことはひとり歩いていました。
みことの朝はとても早いです。
なぜなら朝が好きだからです。
澄んだ空気、露の光る世界…空も緑もなにもかもが清らかな純白に包まれる朝。
それらを見るたびに、みことの心は許され救われたような心地になるのでした。

みことの通う学校はもともとカトリック系の学校だったので、校内には礼拝堂があります。ここを心のよりどころとする生徒はたくさんいます。みことも、礼拝堂を愛する生徒の一人でした。
早朝の生徒がいない礼拝堂。その中に入れずとも、朝の輝きの中でひと際美しい屋根の上の十字架は、みことの支えでした。
両手を握って跪き、
『わたしのつみをおゆるしください』
『みなにめぐみをおあたえください』
心沈めてただ祈る…それが彼の日課でした。

みことは学校に着くと先ず教室へ行き、窓を開け放って空気を入れ替えて、自分の机の椅子の上にカバンを留守番させます。
何があろうと変わらぬこと、変えぬこと、それがみことです。
今も、礼拝堂へ向かっているところでした。
いつも通りの道を、いつも通り、でも、視線だけは下向きに…礼拝堂へ、向っていました。

ふと、後ろの方から声が聞こえたような気がしました。部活動の朝練の掛け声かな、とみことは思いましたが、こちらに向かってくる不規則な足音に、そうではないと立ち止まりました。
知っている、この今にも転んでしまいそうな、支えを欲するような小さな足音…
知っているのに、知っているから、みことは振り向けずにいました。
ただ立ち止まって耳をそばだてて、足音の行方を探りました。

足音は自分のすぐ後ろで止まりました。
それと同時に制服の裾をくいっとひかれ、みことは振り向きます。
無意識の内に目を瞑っていたようです。振り向きざまに視界に飛び込んできた朝の光が、とてもまぶしく感じられました。
そのまぶしさの中、まるで日の光を宿したかのように美しい髪をしたあの女の子が、俯いて、でもしっかりとみことの制服をつまみ、ぽつんと立っていました。

「あ、」
「…Здравствуйте」

 みことはとてもとてもびっくりしました。
なぜなら女の子がひとりで自分のもとに来てくれたからです。
いままで、酷くひどく近づくことを怖がっていたのに。
いままで、彼女と共にいたクロガネに導かれながらだったのに。

みことはしばらく女の子を見ていましたが、このままでは彼女も顔をあげることができないだろうと前に向きなおりました。

「ズドラーストヴィチェ」

そう言葉を返すと、ポケットからハンカチを取り出し、手元で何かをつくり出しました。

「…?」

 女の子は不思議そうに視線だけをみことに向けます。

「…」

ちょっぴりなで肩のみことだけど、男らしさのある体格です。
それが身近にあることは、女の子にとって、やはり不安でしかありませんでした。

「…、せっちゃん」

呼びかけに女の子がハッとすると、みことの左肩にちいさな黒い人形がいました。

「わんわん」
「…ワン?」

 女の子はきょとんとしながらも、カバンを腕にかけ、人形を受け取ります。
自然と手が伸びたのです。
どことなく懐かしい感じがしたからです。
タオル生地でふわふわとしていて、やさしい石鹸の香りがします。

「ぇと、…ぼくは、ジレーザ」
「…ジレーザ…」

「わんわん、えへへ」
「…」

「…いまから、礼拝堂にいくんだわん」
「…」

「せっちゃんも、いきませんか?わんわん」
「…」

みことはジレーザと名付けた人形に心を託し、女の子に語り掛けました。
背後の女の子は黙ったままでしたが、なんとなくいつもとは空気感が違うようにみことは思いました。


「…」
「…うん」

みことの制服をつまむ指先に、ちょっぴりの力を込めて、女の子は頷きました。

つづく
 
話題:コラボ絵
企画【まにまに!
白金雪花ちゃん
みこと

*Hug !comm2
おともだち*09/13 12:04
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