「おお、なんと素晴らしい! 今こそ我が悲願は成就せり!この力、この強さ!まさしく世界の覇者となるにふさわしい!!」

高揚した男の声が響く。荒れ狂う風に蝋燭の炎が勢い良く揺らめく。質量を伴った風だ。圧倒的な気配が現出させる風だ。
裾のぞろりと長く豪奢な格好をした中年の男は、興奮に身震いする。一見すると神官のローブにも見えるが、施されている装飾は禍々しさに満ちていた。熱狂する言葉は何度も同じ単語を繰り返す――力、悲願、そして世界を我が手にと。

「ちょぉぉっとおっさん、ヒトリで盛り上がってるとこ悪いんだけど迷惑だからやめてもらうわよ。あとあんた語彙少ないわね……」

風に負けじと声が飛んだ。身体のあちこちを傷だらけにしたテロルがふらつきながらも立ち上がり、祭壇の前に立つ男を見上げて指を突き付ける。

「あんたのショボい野望なんざどーでも! いいのっ! とにかくその子を返してもらうから覚悟なさい!!」

「死にぞこないの魔導師がぬかしおる。互いの実力差もわからんとは哀れなものだ」

「やっかましい!!」

祭壇に供えられたミーナはそのままだった。一糸纏わぬ裸体を磔にされ、ぐったりと目を閉じたその貌には生気がない。薄い胸を僅かに上下させていることから、辛うじて生きていることがわかる。あれほど輝きに溢れていた背の翅も、今はすっかり色褪せている。
テロルが呪文を唱え始める。
男がパキパキと不可解な音を立ててその姿を変貌させて行く。
ミーナの頬を涙が伝う。
それら全てを見て取って、しかしケトルはそのどれにも心を割いていない。
ケトルはただ、狂おしいほどの心臓の昂ぶりを感じていた。