ケトルは何が起きたのかわからなかった。
まず、床の窪みに流れ込んだ水が不思議な模様を描き、ドームの天井が開き、月光と共にピリピリと冷えた空気が辺りを満たした。そしてテロルがあのローブの男に雷を落とし――炸裂する光と音の奔流にケトルは思わず目を瞑り――再び開けた時には、テロルが吹っ飛ばされていた。

「はは……」

ローブの男は笑っていた。

「ははは……」

笑い声は徐々に大きくなり、哄笑へと変わる。

「はははは! 素晴らしいな、力というものは! 元々私が有する魔力は雷火の魔女よりも劣っていただろうが……それが、どうだ! 異界の魔力を得て、その差は大きく逆転したのだ!!」

「テロル! さっきまで余裕ぶってたのにどうしたんだよ!?」

「……うっさいわねー」

テロルが土埃を払いながら立ち上がった。

「間に合なかったのよ。あたしの術が直撃するより先に、儀式の準備が整った。エラムは異界の門を開き、異界の魔力を己のものとした。で、あたしの術をその膨れ上がった魔力で弾いた……ってところかしら?」

「良い読みだ」

男のローブが風にはためいている。風は男の体から生じていた。溢れる力が風の様に渦を巻いているのだ。