風の吹き抜ける音がした。俄に広間の入口が騒がしくなる。

「エラム様――乱入者です!」

部下の声に振り向くと、雷火の魔女が少年を連れて傭兵達と戦っていた。

「あいつらは傭兵達に任せておけ。賃金分は働いて貰わねばな」

「はい!」

「念の為儀式は早める。出力を上げろ」

風切り音と剣戟の音、弓を引く音がこちらにも聞こえてくるが、魔術の詠唱に掻き消された。
小さな音を立て、複雑怪奇な幾何学模様が虚空に浮かび上がる。磔にされた少女が苦悶の表情を浮かべた。

「ほう」

エラムは目を細めた。髭の整えられた顎を撫でる。

「意識を失って尚抵抗なさいますか、プリンセス。流石は妖精の精神力。ですが、貴女には何も出来ませんよ。その力を使いこなす術も、自身を守る術も知らない貴女は只の子供です」

少女は答えない。その顔色がどんどん蒼褪めて行く。エラムは満足気に頷いた。計画の万全さに頷いたのだ。

「貴女の人生は私に利用される為に存在したのですよ。そう何度も説明した筈ですがね……」

「――いいえ!」

声が響くと同時、紫電が轟いた。

「はっきりと言うわよ。あんたに否定を叩き付けてあげる」

聞き覚えがあるどころではない。

「雷火の魔女……!!」

エラムは苦々しくその名を呼んだ。