風が鳴るのは一瞬。次の瞬間には宙に舞い上がった者達が次々と石畳に投げ出された。あちこちで苦悶の声が漏れる。それを一瞥するとサルファーはケトルの元へと飛んだ。
背後から矢の気配が迫る――身を捻って躱す。飛ぶ。矢の射程範囲外へ。

「……ケトル」

少年は動かないが、少なくとも外からわかる傷は無い。どうやらただ気を失っているようだった。
数回、軽く羽ばたいて風を当てる。

「う……」

ケトルが目を覚ました。しきりに頭をさすりながらきょろきょろとしている。

「えっ……おれ、こんなに吹っ飛ばされたの? うそだろ? そ、そうだ、敵は!?」

「粗方打ちのめしておきましたよ。でもまだ弓使いが二人います。儀式に掛かり切りの魔術師達もいます」

光球を消し、少しでも相手から自分達の姿を見えなくする。一気に暗くなった空間の中、サルファーの聴覚は弓使い達の距離を詰める足音を捉える。

「走れますか? 移動を……」

「それはいいんだけれども……」

ケトルは苦笑したようだった。

「テロルと喋る時と雰囲気違うな」

「よく言われます」

主人の性格があれだから、せめて己だけは周囲に丁寧であろうとしているだけなのだが。