少年が悲鳴を上げながら吹っ飛び、自分が入って来た扉に激突して動かなくなる。
サイードはいつの間にか扉が閉まっていることに僅かな引っ掛かりを覚えたが、それ以上は気にせず雷火の魔女に向き直る。ちらりと見えた閂は綺麗に元通りになっていた。
風切音が響く。雷火の魔女が立て続けに風の刃を放ち、一対多で戦っている。

「怯むな! 常に二人以上で攻撃しろ!!」

叱咤――祭壇に行かせまいとする鎧兜の男。

「邪魔よあんたら!」

怒声――雷火の魔女から迸る旋風。

「こいつ……まだこんな力を!」

一人一人確実に圧倒されていく。
手薄になった広間を雷火の魔女は走る。ジグザグに動き回り、包囲されまいとする。
祭壇の手前に立つ二人が矢をつがえた。

「くっ……!」

雷火の魔女が身を翻す。
近接戦闘役の傭兵の人数が減るまで待機していた弓使い達――その矢が魔女のマントを、長い髪を、掠める。
どんどん後退を余儀無くされる魔女――暴風で矢を打ち払う。
ばらばらと落ちる矢――サイードの足元にも。
魔法を放った直後に出来る絶対的な隙――サイードはその無防備になった背に駆け寄り、魔女が振り向くにも構わず斧を袈裟懸けに降り下ろした。

「――――!?」

だが、

「……手応えが、無い!?」

サイードは驚愕に目を見開く。
魔女の姿が陽炎の如く揺らぎ、蝙蝠の翼を持つ黒猫が現れた。