ふとケトルは疑問に思ったことを聞いてみた。

「そのネコモドキ……じゃなくてサルファーは、そんなの食べて平気なの?」

少なくともケトルの周囲には猫にパンを与える村人はいなかった。いや猫ではないが。

「こういうのなら平気よ。人間が食べすぎたら駄目ってだけ」

テロルはそう言うとパンの残りを咀嚼した。ケトルもテロルに倣い、恐る恐る口にする。

「……おいしい」

この地方ではポピュラーなライ麦のパンだ。想像していたよりもふっくらとしている。香草に似た味わいがするのは薬草のせいだろう。

「おいしいのに釈然としないって、変な感じ」

「そう言わないの」

苦笑しながらテロルが水差しに葉を入れる。

「常温の水じゃ味気ないでしょ? ハーブ一枚で大分違うわよ」

彼女の手の中でゆっくりと水差しが揺らされ、水が煌めいた。一瞬の、仄かな輝き。

「裏技よ? だってあたしの仕込みじゃないもの」

「ほんっとフィルはこういうの得意だよねー」

水筒の蓋に注いでもらうと、水温の冷たさが指先に伝わって来た。
飲めば、清涼感が体内を駆けて行く。そう言えば喉が渇いていたことを思い出し、何杯も飲む。
そのうち舌が回り出し、気付けば自然と経緯を話し始めていた。自分が近くの村から旅立ったこと、森の中でミーナの声に導かれたこと、遺跡からミーナを連れ出そうとして失敗したこと、殺されかかった時にテロル達が乱入して来たこと。

「そうだ。おれ、まだお礼を言ってなかった! ……ありがとう。二人が来てくれたから死なずに済んだよ」

改まるのには照れがあったので、意味も無く頭を掻いてしまう。
テロルは変な顔をしていた。

「……マトモに例なんざ言われたのって久しぶりだわ」

どんな人生を送っているのか。