「あれに能力を使わせるなと言ったはずだ! 最近ここを嗅ぎ回っている輩に気取られでもしたらどうする! あれはこの計画の要なのだ。決して誰にも介入させるな……!」
そこはどうやら執務室らしく、机や本棚が並んでいる。
まるで男が一息つくのを見計らっていたかのようにノックの音がした。
「サイードとリャオか。どうした?」
ケトルの位置からは見えないが、二人の気配が新たに増えた。
重厚な声が端的に告げる。
「報告が、あり、ます。侵入者、です」
「ななななな何だと!?」
ケトルの心拍数が跳ね上がる。動けずにじっとしていると、
「あれー?」
享楽的な声がとぼけた調子で告げる。
「あそこにネズミがいるヨー!」
ケトルは全速力でその場を離脱する。