ある日、フランはラザフォードを連れて、エオスの部屋を訪ねました。

「エオスさん、エオスさんはまほうつかいですよね。まほうでわん太とお話をすることはできますか?」

 わん太というのはラザフォードの渾名です。幼いフランは彼のことを友達と呼び、自らが付けた渾名で呼ぶのでした。
 だけどフランは不満でした。何故ならば、自分はこうしてわん太の名前を呼べるのに、わん太は呼んでくれないからです。それに、隣にいるのにお喋りだってできやしない。
 それもそのはず、わん太は犬でした。白くて大きな犬でした。
 犬はお喋りできません。わんわんと吠えることしかできません。
 だからフランは思いました。魔法使いに頼んでわん太とお喋りできるようになる魔法をかけて貰おう、と。
 エオスはおっとりと目を細めました。

「あらあら、私は魔法でお料理やお掃除をしたり、織物をすることは出来ますけれど、動物とお話は出来ませんの。そういう魔法と相性が悪いのかしら? うふふ、こうやって目を合わせても……」

 エオスがかがんでわん太と目線を合わせると、わん太の背が跳ねました。尻尾が小刻みに震えます。
「ふう、やっぱりですわ」

 エオスは細く吐息しました。頬に手を当てて悩ましげにかぶりを振ります。

「みんな『タスケテ』『コワイ』としか言いませんの。不思議ですわ〜」

「うはぁ、そ、そうですね」

 フランは本気で不思議そうにしているエオスと、ガタガタ震えるわん太とを見比べました。何がなんだかわかりませんが、これ以上はわん太の体調が心配です。フランはエオスへのお礼もそこそこに、わん太を連れると急いでエオスの部屋を後にしました。

「わん太はエオスさんが苦手なんだね……」