ろくご御大の著作を再読中です。


前巻からの時間経過は不明ですが、柿の食べられる季節です。


四巻目にして、「ある程度宝貝を集めた敵」の登場です。
敵の名前は宝貝王。もちろん本名は他にありますが、あえて胡散臭さを狙い、こう名乗っています。
二巻で雨師や夜主が言っていた、「夢の送り手」です。
この人物に関しては、これ以上の情報はネタバレになってしまうので、極力触れずに感想を書かせて頂きます。


さて、キャラクターに焦点を絞るとうっかりネタバレしてしまうかもしれないので、まずは地の文について語りたいと思います。

個人的な感覚なのですが、この巻は文章を読んでいると、脳内で自然に映像化されて浮かんできました。こういうことは今までもあったのですが、今回は特にスムーズでした。
特に、爆燎槍の変形、そして人型化の流れるような描写はたぎります。ええ、合体とか変形とかパーツ換装とか大好きですよ、私。

また、うつくしいと思ったのはこの一文。
  和穂の顔から笑顔が解けて流れ、恐怖が浮かびあがる。
とてもシンプルなんですけど、その分ストレートに想像できるんですよ。ごてごてとした装飾表現を使わなくても、すっと情景が浮かびます。「解けて流れ」でなんとなく雪解け水を連想しました。

そういえば、ろくごまるに氏の文体は過度な装飾が少なくてあっさりしている印象です。しかし、区点のテンポが妙なリズムを作るから、心に残ります。『食前絶後』の感想でも書きましたが、中毒性があると思います。このクセのある味わいがいいのです。


クセといえば、この巻はなかなかクセがあります。なんていうか、それだけで単行本一冊書けるくらいのネタを惜しみなくガンガン使っているんですよ。
いいですか、時間停止能力を持つ宝貝が登場したのに、その宝貝の攻略がメインではないんですよ?他にも、一時的な共同戦線や、変身アイテムのひねった使い方だとか、最強の宝貝に、主人公の出生ネタ、タイムパラドックスにも触れて、さりげなく世界の危機を阻止。
こんなに盛り沢山でネタのストックは大丈夫か!?と要らん心配をしてしまいました。

「宝貝回収しようがしまいが無意味だ」と主人公の目的意識に揺さぶりをかけた人物が、その生き様から逆説的に「だから宝貝回収は必要なことなんだ」と主人公の目的を強固にするという構造も良かったです。
この巻は特にロジカルな物語構成だと思いました。


ところで、今改めて読むと、146ページの台詞ラストの執着の凄まじさに恐怖を感じました。初めて読んだ時にはスルーしていましたが、ひょっとしてこの人、危ない?というかほぼ初対面の相手なんて赤の他人も同然でしょうに…と考えてしまう私の方がおかしいのでしょうか。
初手から自分が上だと宣言することでその立ち位置を確固たるものにする手腕には成程となりました。どうしても『食前絶後』を引き合いに出してしまいます。

劾想夢の倫理観の無さにも戦慄。「本当は絶対にやっちゃいけないけど、そんなの気にしない」なんて、そりゃ封印されますよ。
一部宝貝連中の「使われるためなら所有者すらどうでもいい」みたいな考え方は一巻から書かれていましたが、この巻でもそんな奴ばかりな上に迷惑度合いが洒落にならないレベルなのが本当に怖かったです。斬象もですが、剛羅も。

ところで剛羅は人型が取れるのか否か。描写は無いですが、可能性あるのかなと。