とりあえず進める

シャニマス三百五十四日目。

あそ→とちよこれいとで第四シーズン。

十連でメモリアルピース。

一次創作小説「彼女の話」J

馬車の中の決して広いとは言えない個室の中、エラムの声が夜明け前の冷えた空気に流れていく。

「秘密にしていた理由は、混乱を招くからですね。唯でさえ養女の身分に驚いていた貴女の養父母に、余計な衝撃を与えたくはないでしょう?」

ミーナは歯を食いしばる。あの二人を理由に使わないで欲しかったから。それに、エラムの動作から翅を通じて伝わる感覚ーー気付きーーこの人の告げる言葉に含まれる事実と隠匿の割合。この人は真実を全て詳らかにしていない、する気も無いのだという気配。
口調から察したーーこの人は女王たる実母の命を受けてミーナを探していたわけではない。何もかも不確かな中で、それだけははっきりと嘘だと確信した。

「……わたしのお母さんは、妖精の女王様なんですよね」

「ええ」

「お父さんは、人間だと言いましたね」

「ええ」


「妖精の王国には、人間がいるのですか?」

エラムの表情は穏やかなものだった。

「いいえ、妖精のみですよ。たまに人間が紛れ込むことはありますがね。貴女の母君は、人間の世界に迷い込み、そこで人間と恋に落ちたのです」

ときめくような物語だと思った。こんな状況でなかったら、ミーナの胸が甘酸っぱく高鳴っていたことだろう。
しかし今はそれどころではない。妖精として覚醒したばかりの肉体はいまだに人間としての間隔を引き摺り、妖精の持つ知覚能力を受け入れられずに肉体への負担を強いているのだから。
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