夏の宵は昼間の熱気を僅かに残していた。
ミーナの家のある区画は夜になると人通りが少なくなる。時折繁華街の方から酔客が紛れ込むこともあるが、普段は静かだ。窓の外から虫の声が反響する。
食器を片付けた後の食卓で、ミーナは自分が両親の実の娘ではないことを知った。
十年以上前、アンゼリカ夫妻が花の仕入れ先を訪れた時、納屋の下で泣いていた乳飲み子がいた。その近くには剣を持った満身創痍の男性と、男性か殺害したらしき六人の武装した男女の遺体があった。
男性は乳飲み子の名がミーナであることと、良い引き取り手を見つけて欲しいことを告げて息を引き取った。
残されたのは七人の遺体と一人の乳飲み子。
その事件性から捜査が行われたが遺体の身元は誰ひとりとして判明せず、当時の神官長の元で身元不明として埋葬された。
乳飲み子は子供のいないアンゼリカ夫妻が育てることにした。