「この神社、普段は閑散としてるのにな」

元旦や盆踊りに比べれば小規模だが、それでもここにこれだけの人数がいるのは珍しい。お年寄りが多いが、老若男女問わず町の住人が集まっているようだった。
あたりを見回しながら言えば、ルカが懐かしそうに笑う。

「子供の頃はお賽銭箱の裏とかでよくかくれんぼしたわねん」

今思えば、ずいぶんと罰当たりな子供もいたものである。裏手に広がる鎮守の森も隠れ場所には最適だったが、大人にはしこたま叱られた。
懐かしい思い出に浸っていると、焚き火の中から白い物が舞い上がった。

「書き初めだ」

「そりゃあめでてぇ。書いた子は字が達者になんべよ」

「良がったなぁー」

「ほんに」

周囲の大人達が口々に言う。

「誰のだろうな」

「あたしの時は舞い上がらなかったのにぃー」

ルカが悔しそうに空を見上げた。よく晴れた青空に、白く煙がたなびいている。書初めの行方はもう見えなくなっていた。
ここ八十神町では、毎年小正月の前後の日曜日に神社で正月飾りや書初めを燃やし、残り火で餅を焼く。燃やすものを集めるのは地元の小学生だ。オレ達も当時は町中を練り歩いて収集し、祭壇を作った。
ちなみにこういった行事は各地にあるようで、近隣の町では浜辺で行うという話を聞いたことがある。

「ルカ姉、チオ姉、来てたんだ」

後ろからの声に振り返ると、ルカの弟のイサクがいた。