この店の店員はフィルしかいない。そもそも従業員が増えたら入りきるのか怪しい。
木造の店舗はこじんまりとしていて、奥の倉庫らしき部屋を含めてもさほど広くはない。いつだったか、屋根裏が居住スペースになっているとヘリオスに教えてもらったことがあった。
ヘリオスは暇があるとこの店に顔を出しているようだった。フランとラザに用事がなければついでに連れて行ってくれる。

(ヘリオスさんは「友人の様子見だ」とか言っているけど、ようは冷やかしたいのよね。きっと)

なおも談笑を続ける二人を尻目にショウウインドウ代わりの窓を見やる。窓の外では薄ぼんやりとした午後の日差しが道行く人々に降り注いでいた。秋の空は爽やかに澄んでいて、時折風を生んでは窓枠を揺らした。
ふと、何かが気になった。
フランはラザを手招きすると、窓に近付く。
よく見れば窓の端に値札がぶら下がっている。

「え!」

つまみ上げれば呆気なく捲れたそれは窓ではなく、単なるタペストリーであった。
鏡面に似たガラス光沢の布に、外の景色が映っている。裏地はただの布、壁に穴は開いていない。ラザが鼻先を寄せて興味深そうににおいを嗅いでいる。

「もしかして、おもてにも同じタペストリーをはっているの? それで、あっちの景色がお店の中に見えて、こっちの景色がお店の外からでも見える……」

「フランちゃん凄い、当たりだなぁ。壁に穴開けんでも窓として使えるし、普通のタペストリーにもなるんよ。ほら、ここらって寒冷地で窓の造りが小さいでしょ? だからお日さまの光が欲しい時とかに便利なんよ」

フィルが嬉しそうに告げる。

「今なら冬の前の特別価格でご提供可能です」

「また妙な代物を……」

ヘリオスが半眼で呻くのをよそに、フランはタペストリーの位置を戻した。
窓の外のすぐそこを誰かが横切るのが見える。

「おきゃくさまみたいですよ?」

フランの声とドアベルが響くのは同時だった。