石川湊


 汚染物質に覆われた世界で傭兵のカイルが出会ったのは、遺跡の深奥で培養液に浮かぶ少女だった。名前はなく、言葉も上手く理解できない、幼い機械の少女。
「お前に名前は無いんだ。分かるか?」
「ナイン? わたし、ナイン!」
 未知の戦闘能力を備えたナインと、なぜか彼女のマスターとして認定されてしまったカイル。彼らは楽園へと通じているとされるヘブンズゲートを求め、人類に見捨てられた世界を旅することに。
 ある時は親子のように、またある時は兄妹のように。そして、ある時は恋人のように。旅の中で変わっていく二人の関係。そして未来へ希望を見出した先に流れる、ナインの涙の理由とは――。
 これは世界の終わりに結ばれる、愛の物語。

(あらすじは電撃文庫のサイトから引用しました)
(問題があれば削除します)


前作『スカイフォール』と世界観を共有しています。前作は空の上で今作は地上編とも言うべきでしょうか。
前作を読んで無くても問題なさそうです。
ですが、両方とも読んでいる身としては、前作で空に落とした色々な物が地上では貴重な物資としてありがたがられていたりして、そのつながりを思うと微笑ましかったです。…でも落下した(ネタバレ)とかどうするんでしょう…やはり動物が食べに来るのでしょうか。
空に遺跡がある理由もこのお話の早々に明らかになり、しかし全貌は掴めないままです。
バベルと呼ばれる巨大建造物は空で言うところのターミナルですよね。あれのせいで一日中日光が届かない地域があるというのも、なるほどと思いました。こう、別の視点から見ることが面白いです。
あと、主人公カイルの探すヘブンズゲートですが、前作を読んでいると空に行けたとしてもそこは決して楽園ではないんですよねえ…となります。
こういう些細な描写は、前作を読んでおいた方が楽しめると思います。


人類は戦争の果てに「人間だけ殺す毒ガス的な物質」を開発して絶滅の危機に陥りました。なんという自業自得。また、わざわざ生物を戦闘用に改造し、制御出来なくなって放り出すという愚かさ。
難を逃れた人々は集落を形成し、遺跡を盗掘したりしながら暮らしておりました。

地上に生きる人々の方が毎日を精一杯諦めずに生きていて、正直空の人々よりも好感が持てました。これはおそらくわざと差別化しているのかなと思いました。その姿から「生きるということ」「人間らしさとは」というテーマが浮かび上がる点は前作よりも自然でした。
前作もテーマは同じですが、文章が書きたいことに追いつけていなかった印象です。しかし今回は前作で物足りなく感じたストーリーやキャラクター描写がこなれてきて、別視点を用いたことにより世界観が深まって、結果としてテーマもスッと入ってきました。格段にレベルアップしています。この調子ですと次回作も楽しみです。

そう、キャラクターがいいんです。
主人公のカイルさんはサイボーグだから外見は二十代ですけれども実年齢はおじいさんくらいのために渋くて、人間らしさに悩む姿もかっこいいです。キャラ付けのためとはいえちょっとやれやれ言い過ぎですけれどね。
ヒロインのナインは兵器としての面が狂気染みて見えてちょっと怖いけれど、良くも悪くもひたすら無邪気にカイルさんを慕う姿はとても可愛いです。表紙のナインを可愛いって思った人は、ジャケ買いをお勧めしたいです。
サブキャラクターではバーニィが可愛かったです。迂闊な発言の多い、愛すべきコメディリリーフ。姉さんとは規格が合わないから通信出来ないって拗ねる、そんな弟属性!でもナインと一緒の時はお兄ちゃんしているのが萌えます。外見が十代後半だからか、考え方は別として、言動が高校生のようで、この作中では新鮮でした。人間のフリをするアンドロイドという設定がツボなので、そこもポイントですね。
バーニィの姉さん、アンビエッタも良かったです。気の良いお姉さん属性!でも外見はロボ娘通り越して完全にメカ!人間みたいな外見のロボ達では満足出来ない方々のニーズにもしっかりお応えする構えです…この作者、まだ二作目なのに中々やります。
この四人に、まだ掘り下げられていないラムちゃんを混ぜてわちゃわちゃ旅する続編が読みたいです。二人旅もいいですが、みんないいキャラなのでまだ見たいんですよ。

作者やるなあと思ったのはもう一つあり、最初うぎゃーってなったお目々交換が後々こんなにも萌えることになるなんて思いもしなかったことです。こういうのは機械ならではの良さがあります。作者のロボ娘萌えが伝わってきました。


でも、不満なことが一つだけあります。
あらすじにある「これは世界の終わりに結ばれる、愛の物語」のフレーズでラブストーリーを期待したのに、結局は恋愛よりも淡い感情で終わったのが不満です。愛にも色々な種類がありますが、個人的には親子愛に近いと感じました。
あらすじ書いたのは編集さんですか?しっかりして欲しいです。CP萌えする気満々で読んだのに、肩透かしでした。
良い主人公とヒロインだったので、恋愛要素がなくても充分おもしろかったのですが、恋愛を期待してわくわくしながら読んだから返って喉に小骨が引っかかったような気持ちになりました。

続きが出て欲しいです…そしてカイルさんとナインでラブストーリーして下さい…。
二人共機械の体であり、肉体的に交れないと言うのなら、だからこそ精神的な結びつきが重要になって、人間同士では書けないような究極にプラトニックな恋愛が出来る設定なのに。勿体無いです。
うむむ、色々言いましたが、上記を男女カップリング中毒の戯言と流すなら、わざわざあらすじに「愛の物語」って表記しないで欲しかったです。


え、『ポンコツ勇者のシロとクロ』…?電撃文庫の新刊で本日発売?イラストレーターさんも違いますし、新シリーズ?この世界の物語の続きは?出ないんですか?多宇部氏といい、何故私の気に入った電撃文庫作品はどれもこれもシリーズ化しないんですかね。悲しいです。