ろくごまるに氏の著作を再読中です。
時系列は前巻から三ヶ月後。田んぼが青々としている季節。
ええと、つまり和穂が人間界に下りたのは二月くらい?でしょうか?
さておき、宝貝回収第二幕です。
冒頭の雨師から、街の二人の道士まで、今巻は人間界にいる仙人未満な人達のお話と見ることも出来ますね。軽くロミオとジュリエットの要素を交えつつ。
おい、いきなり挿絵の人の絵柄変わったぞ、みたいなことを言わないように。ひさいち氏の絵柄は、今の段階では序の口です。和穂の眉は短編集の挿絵が一番凄まじいですよ?
殷雷の髪は紫よりもこっちのが好きですね。
それにしても口絵一枚目のほっこり感よ。
本編は、のっけから調整が入ったのか、断縁獄と索具輪の機能の幅が狭まりました。
断縁獄は仕方がないとして、索具輪の不調の原因は本気でわかりません。誰が宝貝を所持しているか把握出来たら駆け引きが生まれなくなってつまらない、という作者的理由ではなく、物語の上での理屈が欲しいですが…。
あ、符封録のいくつかの符は道中の人助けで使ったと予想しておきます。
内容については、はた迷惑な爺さん達だと呆れるやら。ラストシーンのキャラクター達の心情と完全にシンクロしました。
雨師の説得や、作戦立案等々で和穂の心の強さが垣間見えるのはとても良いです。和穂に戦闘能力は無いものの、足りない部分を補いながら進むひたむきさが魅力的です。
さておき、…このペースで回収は終わるのでしょうかね。名無しの宝貝が一気に百個程集まっても良いんですよ?と初めて読んだ時は思いましたし、今再読しても思っています。
腕だけが長大な場合、下半身も強化すべきだろうかと思いながら落書き。
彼女には全てがあった。
世界の全ては彼女のために存在していた。
少なくとも、彼女の目に見える範囲の世界は、彼女に優しかった。
母親は早くに他界していたが、その分、父親が愛情を注いだ。
父親は元々在宅の仕事をしており、仕事の合間を見つけては、彼女の世話を焼いた。
代々の家業のおかげで、住む家は屋敷と呼べる程度の規模はあった。
父の代では収入が足りず、贅沢ではなかったが、それでも飢えを知らない程度には足りていた。
彼女は自分がこの上なく愛されていることを、知っていた。その事実に感謝していた。
彼女もまた、世界を愛していた。
幸福だった。
* *
フランが目を覚まして最初にしたのは舌打ちだった。
燻る様な不快感が残っている。
不快感の原因は夢の内容そのものではなかった。
自分のものではない記憶を、まるで自分の記憶の様にまざまざと見せつけられることに対する不快さであった。
この夢を見るのは初めてではない。
それが不愉快に拍車をかける。
幾度も同じ夢を見た末に、最近ではフランは睡眠そのものさえも嫌悪し始めていた。
フランは自分が世界に愛されているとは思っていない。そもそもフランは、愛だの、何だの、に興味が無かった。
興味が無ければ理解も出来ない。
それはフランの幼さから来るのかもしれなかったが、フラン自身には判断がつかなかった。
フランは正真正銘の六歳だ。
六歳の姿のまま、六年を生きた。
そこらの六歳児よりも賢いという自負があったが、それでも理屈に経験が追いつかないことがままあった。
わからないものはわからない。
それをフランは認める。だが、それだけだ。
そもそも、ただ日々を生きるのに精一杯で、それ以外に目を向ける余裕は無いとフランは考えていた。
だからフランにとってそれは、大人の妄言に等しい。
「くだらないわね」
傍らで眠る、フランの一番の仲良し――巨大な白い犬――を起こさない様に伸びをする。
「なにもかもを持っていて、それでマンゾクして考えることを止めた、バカな子ども。甘いものはすきだけど、甘ったるい頭はきらいよ。……あたしはそうはならないわ」
決意を、新たに。
フランは自分の寝室として与えられた部屋を見回した。
そこはエクセドラ男爵の屋敷の一室。
小さな窓の外の、鬱蒼と繁る黒い森を睨む。
「そのためにここに来たのよ」