最近、ろくごまるに氏の著作を読み返し始めました。
まずは最初の単行本化作品、『食前絶後!!』から。
読み方は「くうぜんぜつご」です。私はつい「しょくぜん」って発声してしまいますし、予測変換でも「し」って打っていますが違います。

ともあれ、十数年振りくらいの再読。最初に読んだ時は小学校を卒業したか、していないか、という年齢でした。そのため、当時の自分では理解出来なかったネタがあり、消化不良がありました。
しかし大人になった今読み返してみたら、ネタや登場人物の心情がスムーズに理解出来ました。この話ってこんなに面白かったんですね…びっくり…。


ざっくりとあらすじを説明すると、「幼馴染みの手作り弁当を食べたら厄介事に巻き込まれた」になるのですが、こんな昨今のラノベタイトルみたいなあらすじではあんまりにあんまりなのでちゃんとやります。(この作品は、まだ「ラノベ」という言葉が無くて「ジュブナイル小説」と呼ばれていた頃の作品なのです)
(余談ですが、作中で『封神演義』が「ちょいとマイナー」呼ばわりされたことに驚きました。しかし藤崎竜氏が週間少年ジャンプで連載を始めるのは数年後なのです。まさか『封仙娘娘追宝録』と時期が被ろうとは思うまい)

幼馴染みの徳湖からの告白にイエスと答えた雄一は、徳湖に言われるがままに手作り弁当を食べました。しかしその味は「さっぱりしたアスファルト味のそぼろ」「柔らかい地引き網味のシーフードサラダ」「発狂して自分をチーズだと思い込んでいる煎茶味の黄色いそぼろ」等々、尋常ではありませんでした。実は、徳湖はこの世ならざる味を用いて人体の未知の力を引き出すという、調味魔導師だったのです。
かくて「秘伝の味」を巡る調味魔導師の争いに巻き込まれる雄一。
さらには他の五感に作用する魔術の流派が現れて…。
というお話。

キャラクターに関しては正直、「言葉」を操る流浪の落語家という字面だけでもインパクトが強いです。なまさたう。しかも関西方面では落語家一門が暗躍しているらしいです。
字面のインパクトといえば、「数学部がラクロス府大会でベスト8入賞」も中々気が狂っていて好きです。何がおかしいって、数学部で数学やっているのは主人公だけという現実が。

そんな混沌とした何かを挟みつつ、やっていることは結構ハードボイルドです。主人公とヒロインに決断力があり、淡々としつつも最善を尽くそうとする姿は格好良く、無駄がありません。反面、とても普通の高校生のメンタリティとは思えなかったですが、その分は南方が担っていた印象です。


ところで、ろくごまるに氏の文は特徴的です。句読点の使い方が「そこ!?」というタイミングで入るので、読み始めた頃は戸惑ったものです。
しかし慣れるとこの独特のテンポが癖になります。まるで中毒のように、こうでないと物足りなく感じられます。なんて楽しい語り口でしょうか。

作中の舞台が大阪だけあって、関西弁なのもまた、いいですね。柔らかい印象を受けます。また、シリアスな場面でも深刻になりすぎない匙加減が見事。おかげでライトに読むことができます。


また、わかる人にはわかるネタが満載。しかも作中で解説はしません。
しかし、知らなくても気にせずに読むことができるのが凄いです。私は漫画でも小説でも、元ネタが気になって読み進めることができなくなることがよくあるのですが、この作品はそんなことなかったです。
何故、飼い猫に「シュレディンガー」と名付けるのはおかしいのか?
ギヌフォールに込められた皮肉とは何なのか?
説明はないのです。
でも読むのに支障はありません。
だから私はイ○オンのエンディングテーマ曲を知らなくても、西中島良太がそれを口ずさんで雄一が「昼間からそんなの歌っていたら自殺志願者と間違われるぞ。だが、さすがは我が宿敵、その歌を力強く歌い上げるとは」と胸中で語るシーンで何度でも爆笑するのでしょう。
余談ですが、ギヌフォールがわからなくて検索したら、ろくご者による元ネタ解説ページが出て来ました。親切なろくご者の諸兄らに感謝を。


総括としては、ギャグか、シリアスか、はたまたバイオレンスか。渾然一体とした妙な味の小説でした。
この内容で軽く読ませてくるのだから、凄いよなぁと私は思います。


ところでとっこさんは眼鏡をかけている記述が無いのですが、挿絵で眼鏡なのは「意地悪な(この意地悪な、が大事です)クラス委員長」というからかいから来ているという解釈でよろしいか。