白く淡い朝の日差しが室内をほのかに照らしている。寒帯地方特有の小く分厚い窓から、そっと優しく差し込んでいる。どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。
長かった冬も終わり、春も過ぎ去ろうとしているこの季節。空気からはようやく肌寒さが消え、代わりに、すがすがしい心地よさがあった。
だからだろうか。イルは普段よりも早く目覚めた。いつもよりもすっきりした覚醒感があった。何とはなしに掛布団から上半身を起こし、隣で眠る夫に目を遣る。
ソーマは規則的な寝息を立てていた。南方系民族の血を引く彼は、この地方では珍しい、濃い色の肌をしている。イルは彼の肌の色と、さらさらとした銀髪のコントラストが好きだった。
顔にかかった前髪を払おうと指先を伸ばすと、急に伸びて来た腕に肩を抱かれて横向きに倒された。
「……キスされるかと思った」
ソーマの紫色の瞳が至近距離にあった。普段は滅多に開かれない眼の中に、驚愕と気恥ずかしさを堪えるイルが写っている。
「寝ている時にはしないよ……」
「してくれても良かったのに」
イルは目を反らした。そうでもしないと恥ずかしくて心臓が爆発しそうだった。
「ううっ……。寝ている相手にするなんて、はしたないじゃない」
「どうだろう。その感覚はちょっと分からないなぁ。そもそも君は今、起きている限りはいくらでもキスしてあげると言っているのに等しいんだけど……気付いてる?」
「……うん」
「憶えておくよ。……君からそんな言葉が聞けるなんて、僕はまだ夢の中みたいだ」
ソーマの腕がイルをゆるく抱き締める。甘える様に擦り寄り、二人の距離がゼロになる。
「夢じゃない、よ?」
イルはソーマの腕を手に取り、軽く音を立てて口付けた。
「キスのお題」腕:恋慕