アコルス「あいつを父親と思いたくはない」
アイリス「初手から全否定ですか。この会話文の意義を粉微塵に粉砕ですか。散々父上殿呼ばわりしておいてその言い草……、流石アコルス様ですね」
アコ「無表情で淡々と喋るな、せめてテンション上げろ。あのな、わたしがマルクスを父上殿と呼ぶのは嫌がらせの一環にすぎないからな」
アイ「そんなにマルクス様のことがお嫌いなのですか」
アコ「わたしには好き嫌いという概念が理解出来ない。単にわたしはマルクスを認められないんだ。思慕? 敬愛? ぞっとする。……あいつさえいなければ、わたしは、わたしたちは、こんな煩わしいことにならなかった。お前だって、感情が無いまま、何かが好きだとか嫌いだとかさえ自身で理解することもできずに生きるのは不便だろう」
アイ「確かに私には他者の感情の機微が理解できないため、人間関係を形成するのにあたり支障を来しています。円滑なコミュニケーションなど夢のまた夢です」
アコ「お前がそうなったのは誰のせいだ?」
アイ「誰のせいでも無いです。正確に言うなら、現時点の私がこうなのは誰の責に帰すべき事由でも無いと思いたい。これが私の願望です。……アコルス様、貴方がどう思おうと、マルクス様は私達の父親です。貴方が認めようと、認めまいと」
アコ「はっ、父親! 血の繋がりという名の楔はいつまでわたしを不自由にするのか!」
アイ「生き物が生まれ落ちる時、一番始めに手繰るヨスガが血縁なのだと思います。そしてそれは生涯付き纏うものではないかと」


マー「ところで何で今日の夕飯はいつもより豪勢なんだい? 食卓に花も飾ってあるし……」
アイ「本日はそういう日ですから」
アコ「せいぜい有難がることですなぁ、父上殿」
マ「子供たちがいつになく優しい……! ありがとう、頂きます!」
アコ「(イラッ)お前が乗り気でさえなかったら、こんな茶番なぞせずに済んだものを……」
アイ「折角の機会です。形式的なものですが色々やってみようかと。それに、マルクス様から満足を得られたようなので、やって良かったと判断しました」
アコ「はぁ……。共感不可能だ」