「雪の降る音ってどんな音かな」
 粉雪の舞う白銀世界の中、かすかな呟きがこぼれた。
 我ながらなかなかロマンチックな気分だったのだが、返ってきたのは、
「こんこん、とかじゃないのぉ?」
というかなりそっけないものだった。
「こんこん、かーー」
 わたしは空に向かってそっとささやいてみた。吐息は空に届かないうちに白く消えていく。視界いっぱいに儚い粒子が踊る。
「うーん。今は『こんこん』はなんか違う気がするさね」
「ふーん」
 白い世界に溶け込む気なんてさらさらない黒がどうでもよさげに返す。
 この、黒のもふもふコートに包まれて心底興味なさそうな顔をしてる女の子はフランちゃん。確かまだ6歳。その隣のすっかり景観に溶け込んだ白い大きな犬はわん太くん。彼はフランちゃんの友達で、いつも一緒。二人は郊外にある男爵さんちで住み込みの奉公してる。
 そんでわたしはロジー・アルバ、8歳。仕事の休憩時間で街うろついてた二人を呼び止め、自宅の庭先にてあったかいココアを振る舞いついでに世間話。
「『こんこん』じゃなかったら何だろさ?『はらはら』?『ぱらぱら』?」
「そんなのたべちゃえばみんなおんなじでしょ」
 わぁフランちゃんのそっけなさノンストップ。ていうか今雪食べるって言ったこの子!?
「シロップかければいけそうな気がする」
「いけないよ!この寒い中そんなもん食べたら凍えちまうさ!!」
 下手したら凍死しかねない。不服そうに呟くフランちゃんを、わん太くんが何か言いたげな目をして見てる。
 ああ…シロップがけの雪なんて想像しただけで体が冷たくなる。慌ててココアをすする。
「まったく。フランちゃんのせいで雰囲気ぶち壊しさね」
 そう言いつつも、わたしはこんな他愛ない会話が結構嫌いじゃなかったりする。