フランさんのお仕事は、ヘリオスさんという人のお屋敷でお手伝いをすることです。
 ラザさんのお仕事は、お屋敷に招かれざる客人が来ないように見張る番犬です。
 2人(正確には1人と1匹)は元々は別のお屋敷で奉公してたのですが、その主人を亡くし、ヘリオスさんのもとにやって来たのでした。

 これは、ヘリオスさんに雇われてから数日後のお話です。

 朝ご飯の手伝いをするため、フランさんはいつものようにキッチンへ向かいました。
 しかし今日はいつもと違い、キッチンからはきれいな歌声が流れてきます。
 フランさんがどきどきしながら中を覗くと、金髪の若い女性ーーエオスさんが歌いながらお鍋をかき混ぜていました。
 リズミカルな旋律に身を任せるように、食材や食器がくるくると動き始めます。
 包丁は野菜を刻み、エオスさんのかき混ぜるお鍋に案内します。
 一方、ボウルの中では卵とミルクが軽快なリズムを刻み、混ざり合ったその中にパンが次々とダイブするのでした。
「すっごーい…」
 フランさんが思わずつぶやきをもらすと、エオスさんが片耳がぴくっと動かし、
「あら〜。おはようございます」
振り返っておっとりと笑いました。

 エオスさんは、ヘリオスさんのお姉さん。朝焼け色の長い髪と、豊満な肢体と、いかにもおっとりした仕草が特徴的な女性です。年齢は25…のはずですが、20歳前後に見えます。見えますとも。

 そんなエオスさんは、戸口で突っ立っていたフランさんを手招きしました。
「手伝いなら、そこのお肉を焼いてくださいな」
 見ると、ハムがこそこそと食卓から逃げ出そうとしております。
「お肉は逃げやすいんですの」
「そういうもんだいなんですか!?」
 フランさんはハムを捕まえようと、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
 だけど、ハムはなかなかすばしっこいのです。
 結局、わん太さんも巻き込んでやっと捕らえることができたのでした。