繋いだ手だけは優しかった6
11/04/30 20:58










「疑わないのか?」


「ん?何を?」


「未来から来たなんて…あり得ないと思わないのか?」


「うーん…」





木々が風に揺れる。
歴代の火影の顔が彫ってある火影岩を2人並んで見上げながら、会話は行われていた。
四代目が突然口にした「風にあたろうか」という誘いにのって、火影室のある建物の屋上に出たのだった。





「…ナルト、この世には何百、いや、何千もの忍術が存在している。」


「…あぁ。」


「リスクはあるけど、死んだ人を生き返らせる術だってある。」


「…そうだな。」


「それだけじゃない。非日常的なことを可能にする術はいくらでもある。言ってみれば分身の術だって、忍者じゃない人からしたらあり得ないものだろう?」


「……確かに…」


「だから別に君が未来から来たって言っても驚いたりしないよ。僕が得意とする時空間忍術も言ってみれば一種の時間操作と言っても良い。本来なら居るはずのない場所に瞬間移動する。今僕の目の前に居るナルトも本来なら居るはずのない存在だ。同じだろ?」


「あんたは話が上手いな。」


「そう?ははは」





他の誰に言われるよりも、信じてみたくなるんだ。その言葉を。





「それにしても…、ナルトはやっぱり僕よりも母さん似だな。」


「そんなに?」


「うん。目がね、あ!でも、男前具合は僕似かな!なんてね!あははは…ははは…は、恥ずかしい…ごめん今のやっぱり無し!!」





自分で言っときながら、恥ずかしがる父さんはなんだか可愛かった。





「父さんは本当に格好良いよ。いつまでたっても俺の憧れの存在だ。父さんみたいな火影にいつかはなりたいと思ってる。」


「な、ナルト…!そんな嬉しいこと言ってくれるなんて…!!感激だよ!!」





ワシ、ワシ、と頭を撫でてきた手のひらは大きくて、温かかった。
人の手のひらとはこんなにも気持ちの良いものだっただろうか?こんな風に頭を撫でてくれる人はなかなか居なかった。
イルカ先生やカカシ先生、五代目、そして今は亡き三代目や自来也…皆、俺に良くしてくれた。俺はそんな大人たちに出会うのが遅すぎたんだ。気付けば、自分は頭を撫でてもらう側から撫でる側へと成長してしまっていた。
そのせいか人の温もりがやけに懐かしく感じられた。





「ナルト…?」


「父さん………」





優しく俺の名前を呼んでくれるこの声が俺はずっと欲しかったんだ。
俺はいつも一人で孤独に生きてきたんだ。いつも…。いつも…。
もう、現実世界で俺の家族は居なくなってしまった。父さんと会うのもきっと、これが最後だろう。これから先も父さんの夢を見続けるとは思えない。

でも…、それでも俺は嬉しかった。たとえ、目の前に居る父さんが俺が作り出した偽物の父さんだとしても、俺を愛してくれた人物に出会えたことは。





「父さん…、ありがとう。」


「ん??」


「会いに来てくれて…ありがとう。」


「…ははっ、おかしなこと言うね。会いに来てくれたのはナルトじゃないか。こちらこそ、会いに来てくれてありがとう。」





ポンポン、と肩を軽く叩かれた。
なんて優しい手なんだろう。なんでコレは夢なんだろう。なんで俺の父さんや母さんは俺の側に居てくれないんだろう。

なんで、俺は“普通”じゃなくなっちゃったんだろう……。


右肩に置かれた温かな手に左手で触れてみると、「ん?どうした?」と微笑みながら、もう一方の手を重ねてくれた。
父さんの手は大きくて、温かくて…コレが夢であることを忘れてしまいそうになる…。

もっと早く…もっと早く出会えていれば、人生は変わっていたかもしれない。こんなに血にまみれる人生ではなかったかもしれない。

普通の、無邪気なただの子供になれていたかもしれない。






「………」


「!…ナルト?どうした?…泣いてるのか?」






“信じている…”、とだけ告げられたあの日。
完全に我を忘れ、九尾化してしまったあの日。
ペインとの戦いに決着を着けたあの日。

四代目火影が自分の父親だと初めて知ったあの日。

“あの日”の記憶は俺の中で鮮明に残っていた。
でもそれも、俺の中だけのこと。目の前で優しく頭を撫でてくれている父さんには全くない記憶だ。






「…俺が居た世界で、父さんは俺がピンチのとき助けてくれたんだ。九尾の封印式の中で…。いつか俺が九尾のチャクラをコントロール出来るようになると信じてくれた。それだけじゃない、色んなモノを俺に託してくれたんだ。」





夢も希望も全て。
全て託してくれた。





「父さんは…、俺の夢だ」





火影になりたい





「木の葉の里を温かい里にしたい」






悲しむ人間が居ない里にしたい







「皆を幸せにしたい」







俺みたいな扱いを受ける人をこれ以上増やしたくない







「本当は誰だって疑問に思ってるはずなんだ。戦いが繰り返される今の世界はおかしいんじゃないか、って。皆、本当は幸せになりたいと思ってる。なのに争い合っているのはおかしいんじゃないか、って。」





平和なんて訪れるわけがないと、皆が諦めてしまっている





「分かってるのにそれが出来ないのは、人間が弱いからだ…!誰かを泣かせてでしか、自分が幸運であることを確かめられないからだ!じゃあ、俺がそんな皆を変えてやる…!!もう誰も泣かせたくないんだ…!!」






死んでからじゃ遅い
失ってからじゃ遅い

大切な人を失ったときの辛さは並みではない

自来也も三代目も







「俺は絶対に火影になる!!!俺が守ってみせる!!!里も…、三代目が愛した里の人たちも…!!!!!!」







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