話題:創作小説
■その日、里の二つの”桜”が同時に光った。
一つは紅く、一つは白く。

ソレは新たな【運命】の幕開けであった。



鬼の里。『華桜』、ソコは意空間に浮かぶ鬼達の楽園である。

『私の名前は華桜蘭姫(かざくららんき)!、破邪鬼(はじゃき)の里”月代城”で姉を護り、鬼と戦う
”無等角(むとうかく/角の無い)の鬼である!』

破邪鬼伝*乱鬼A

【無等角とは・・・!】
無等角とは”人の姿に近く”美しいものほど”強い”とされる、鬼世界の”最高位”の存在で、この里では蘭姫が唯一の存在である。
故に、蘭姫は”姉”の『麗姫(うるひめ)』に仕える”守護者”となり、もう一人の守護者である”戒(かい)"の元で修行を積んでいる。(ちなみに麗姫と戒は幼い頃からの許婚である。)

夢は鬼長になること。
そのため今日も彼女は戦うのである。

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「めーちゃん・・・!」

「アラ、蘭姫ちゃん・・・・!」

「遊びに来たよ・・・!」


「フフフ・・・vv」


”めーちゃんと”呼ばれたその女性は城の使用人の一人である。
「待ってね、今水をくんだら終わりだから・・・・!」

「ハーイ!!」
蘭姫の嬉しそうな声が城内に響き渡る。


ココは里の要。月代城。
彼女の名前は『雪鷹(ゆきたか)ササメ』さん、
近々三獣鬼(さんじゅうき)の鬼似鷹(きじたか)さんと結婚の予定である。

『三獣鬼』とはこの里がまだ人間界とつながりがあった頃、鬼長の父、月代が三匹の角獣(かくじゅう)をつれて大鬼を退治した伝説から捕らえられている。
ソレは人間界でもおとぎ話として残っており。鬼似鷹(きじたか)、犬鬼(いぬき)猿鬼魔(えにま)の三人は、その子孫に当たるのである。

普段は城の護りの要である三獣鬼であるが、その中の一人。そんな凄い人と結婚するのが私の友達”めーちゃん!”である!


そして二人は城下町に行くといつものように里の憩いの場、「喫茶きびだんご」で話をするのである。
「あはは・・・!!!」
「ウフフ・・・!!」

まるで看板娘のように入り口の長椅子にちょこんと座って話す二人は最近ではココの名物である。
ササメが使用人として入ってからは毎日のようにココに通っているような気がする。

「でね・・・戒がね・・・!!」

「フフフ・・・v」



「何か言われたますよ。」
くすくすと笑うのは奥の席に座ってソレを眺めている城の書記官、白刃(しらは)と。「うっせぇ・・・!!!」
ふてくされながらテーブルにうなだれる戒。蘭姫の師匠である。

「それにしても今日は平和ですね・・・・」


「あぁ・・・」
「あの二人が”式”を挙げる日もこんな平和な”日”だといいですね・・・」


「あぁ・・・・」

白刃の言葉に返す戒。ソレは間近に迫っていた。

・・・・・・・

ポゥ・・・・・・・。

城内では先読みの姫君、麗姫が”先読み(夢見予知)”の神通力で里の様子を探っていた。
神通力の発動時は彼女は宙に浮かんでいる。そして目を閉じると里の様々なモノが見えてくる。
木々のざわめきや風の音、里全体のその姿。

しかし、
”何か・・・不吉な影が里に迫っているような・・・・・!”

彼女の仕事はその能力で不吉な影を予知することである。



「あ!いけない!私夕食の山菜を取りに行くんだった・・・・!!!」

めーちゃんの仕事は主に里の給仕である。
「大丈夫?」
心配そうにする蘭姫にササメは「えぇ」と返すと
「山の魔物には気をつけて行ってくるから・・・」と
「それに鬼似鷹さんがくれた”お守り”もあるし・・・・」
ときらりと光る首飾りを取って彼女に見せてみる。

三等角(三等角)の彼女は戦闘能力が少ない。というより里の一般人のようなものなので殆ど無い。
なのでこのような魔よけのお守りや最低限の護身刀などを持って山に出かけるのである。

「わぁー・・・・キレー・・・・・」
きらりと光る緑色のソレは鬼似鷹の瞳の色にも似ていた。
「フフフ・・・式の前の”婚約”にもらったの・・・」

さささとまたソレを首に書け仕舞いなおすササメ。まだ10歳の蘭姫にはソレがとても素敵なものに見えた。
実際に素敵なことである。ササメもそれが自慢であった。

「じゃぁ・・・行ってきます・・・!」
「うん!気をつけてねー・・・・・・!!!!」

そう言ってササメと蘭姫はその場を別れた。

事件はその日の午後に起こるのである。

「大変だ・・・!!!ササメが山の魔物に・・・!!!」
その話が飛び込んできたのは戒と蘭姫が夕の予定を確認していた時だ。

「え・・!??」

驚く蘭姫。

「めーちゃん・・・・!!!」
傷を負って寝込むササメの部屋に駆け込むとソコには既に先客がいた。

「鬼似鷹さん・・・!??」
彼は蘭姫に気づいて振り向くと半身をそちらに向け座ったままこういった。

「悪いが少し二人きりにさせてくれないか?」
半身はササメのほうへと座り込んで向いている。

「え!??・・・・う・・・うん・・・・」
ササメの現状に驚いた蘭姫だったが鬼似鷹の神妙な顔つきに何かを察してソレを受け入れる事にした。


そして二人きりの時間が訪れる。
「ササメ・・・・」
体の一部が石化している・・・・!
ササメは片側の首から頬にかけて白く石化したように硬化した肌を露出させていた。
もう片側には争ったような傷跡が見える。
”コレは・・・・・”

そ・・・・・っ

「!??」
不意にササメの手が鬼似鷹の頬へと伸びる。
ぱちりと目を覚ましたササメは瞳孔を開かせたその瞳でおきあるとすぐさまこう言った。

「鬼似鷹さん・・・私・・・・”無等角”の心臓が欲しいの・・・・・」
座り込んで彼女を見ていた鬼似鷹と対面するような形になる。

”!??・・ササメ・・・!??”
驚く鬼似鷹であったがササメの目が紅く光る。

「私・・ソレを食べればこの”石化”から開放されるような気がするの。」

”取ってきて・・・・くれる・・・・・?”
紅い瞳が目を輝かせてそう言っている。
・・・・・・

固まっていた鬼似鷹であったがスクリと立ち上がると「分かった」と笑みを見せる。

そう言って笹目を抱きしめると「愛してる・・・・」と呟いた。


「・・・・めーちゃん・・・大丈夫かなぁ・・・・・」
麗姫の指示で城下町を見回りする戒と蘭姫。
「ん・・・?」心配そうに地面を見つめる蘭姫に戒はこう言った
「症状については書官の白刃が一生懸命調べてる最中だ。
麗姫も神通力で敵の姿を探している・・・・

何より大事な”花嫁”なんだ・・・・・”式”だけはちゃんと挙げさせて・・・・・」

キラリ・・・・・・・
一瞬視界の端に緑色の何かが光った。

「危ねぇ!蘭姫・・・!!」
ソレを抱えて攻撃をかわす。
後方に飛ぶように後退すると目の前をソレを追うように何かが地面に突き刺さる。

良く見れば硬化した緑色の”羽”である。
・・・・


おん・・・・・・


「!???」
飛んできた羽の方向へと頭を上げると。平屋の建物のその上に”翼”を広げた鬼似鷹が立っていた。
”鬼似鷹!??”驚く戒。
「鬼似鷹さん・・・!??」
蘭姫がソレに続くと二人を見下ろす鬼似鷹は何かにでも囚われたような瞳で「無等角の”心臓”をよこせ」と低く、かつ冷たい印象でそう言い放った。

「それでササメは開放される・・・!!!!」さっと広げていた大きな翼の方羽を広げると後ろにササメが立っていた。
その瞳は傷付いたその姿のまま。瞳孔が開ききっている。


”めーちゃん・・・!?????”
その姿に動揺を隠せない蘭姫。とても戦える状態ではなかった。

ましては一緒に城を守るその仲間を相手にしてなど。

しかし戒は違った「・・・ざっけんな!何の冗談か知らネェが仲間を攻撃するなんてお前らしくねぇな!!!」

確かに普段の彼らしくない。普段の彼は温厚で争いごとは極力嫌うような性格である。

「ササメと幸せになるためだ。・・・・お前達には死んでもらう」
緑のマスクをかけたその顔はかろうじて瞳と口が表情を語る。
だがその姿ゆえか心中までは分からない。

「鬼似鷹さん・・・・」

ソレを愛しむようにササメが抱きつく。と、鬼似鷹がピタリと固まる。

だが次の瞬間・・・・・
「嘴召喚・・・!!!!」

六角形に囲まれた狭い空間のねじれから大きな鳥の嘴を何本も召喚すると
「ピピピピピ・・・」
その鳴き声を制止するように両手を広げる。

彼の肩の上に広がるその空間のねじれの奥から無数の嘴と瞳が見える。

サァ・・・・・・・

暫くの間の後に「音波砲発射・・・・!!!」
その手をまるで音楽会の指揮者のごとく振り下ろすと嘴から大きな音を立てて無数のソレが放たれる。

「くっ・・・!!!」
蘭姫を抱きとめるように片手で庇い刀でソレを受け流すと戒は蘭姫にこう言った。

「蘭姫!!コイツは俺がなんとかする!!!お前は付近の住民を避難させるんだ!!!」
真顔である。既に戦闘スイッチが入っているようだ。

「う・・うん・・・」
一瞬それにうろたえた蘭姫であるがこの状況。確かに付近住民に被害が及んではいけないとその言葉を受け入れる事にした。
「分かった・・・・・!!」

そしてその場を離れようとする”無等角”蘭姫にササメが一瞬「待っ・・・!」と声を上げた。

しかし追いかけようと身体を前に動かしたソレを鬼似鷹がつなぎとめる。
彼女の手を掴むと「ササメ、君は傍に居てくれ・・・」と彼女を抱き寄せる。

「・・・っ!???鬼似鷹さん・・・・!??」
それに抱き寄せられ腕に収まるササメ。

ソレを驚くように見つめる戒。

しかしササメの心中は穏やかでなかった・・・・


”わずらわしいな・・・・・・・”

低音の何かが奥底で動いている。